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2019年1月20日 (日)

【書評】騙し絵の牙 塩田武士/著

Damasienokiba

絶体絶命の土壇場のピンチに陥っても、あたふたしないという、たんに冷静でいられるだけでなく、むしろピンチはチャンスというような余裕とユーモアを持って、しかもそこから、その場の流れを一気に変えるような、そういう人物像に憧れて生きてきたのであるが、自分はまったくそういう人間には成りえていない。

それでも私はトラブルが好きで、それを楽しむような変な性格であり、それゆえに無計画な旅であるとか、トラブルが続出して苦闘する超長距離レースに出たりしているのであるが、それは自らがまいた種を刈り取る、または自らが招いた災いを克服するといったレベルの話であり、自分ではない誰かのせいで組織や多くの人がピンチになったときに、まさに救世主的な活躍で、多くの仲間のピンチを救い、感謝され、崇められるような働きなんぞは、当然したこともなくで、たぶんそういう時は、まっさきに逃げ出すような男であるのが実情であろう。(笑)

私は、そういう普通?の人間なのであるが、私のよく知っている人たちなどの周りを見回してみて、救世主的なことができそうな知り合いはいるだろうかと考えてみた。

同じ組織の中では、隣の部長なんかはそういう人物だなあと思うし、少し離れたところでは、20年来の付き合いのあるA先輩辺りは、全体が陥ったピンチからの流れを変えられる行動ができそうだと思った。

さらに組織外で考えてみると、あっ!とひとり、ふと頭に浮かんだ!

バカロード師匠である。

彼なら、ピンチに陥ったときに、絶妙の言葉と行動で、流れを一気に変える男だと直感的に確信した。なにせ、北米大陸をマラソンで横断した世界でたった6人のうちの一人である。不遜を隠さずに言えば、(私が彼に一方的なのであるが、)私と勝った負けたと争う走力レベルでありながら、さきほどの偉業を成し遂げているのである。

自分はそういう男になれなくとも、そういう男がそばにいるということは、なんだかとても嬉しく心強いものである。

さて、書評らしからぬ始まりとなったのであるが、本作品の主人公は、小説の編集者として、業界屈指の編集者でありながら、現在は組織の中で、衰退する一方の斜陽産業そのものの雑誌の編集長となっている男の話である。

本作品の表紙や挿入写真に使われているのは、人気タレントの「大泉洋」であるのだが、本作品の主人公である「速水輝也」のキャラクターは、テレビで見る「大泉洋」そのものなのである。

既視感という言葉があるが、著者は大泉洋をイメージして、主人公を作り上げたのではないか、逆に言うと、「大泉洋」はそれほどの確立された唯一無二のキャラクター何だということに改めて気づかされたのである。

ストーリー展開は、編集者として一流であり、そのうえユーモアの塊で、その場を和ませる才能にも溢れるばかりでなく、上述したような絶体絶命のピンチにも、完璧な立ち振る舞い、それには当然、日ごろからの情報収集や自己研鑽なくしては成し得ないものでありつつ、常にユーモアを忘れない対応によって、ギリギリの最低限の状態に戻すのではなく、関係したすべての人間が、問題発生により瓦解・崩壊しそうになったそこから、以前の良好な人間関係以上の前に進んだ関係にまで昇華させるのである。

組織人として、これほど頼りになる上司はいないであろう。その感じが、テレビでお見かけする「大泉洋」そっくりなのであり、それが表紙から途中に挿入されている写真になっているのだから、本著のイメージ戦略は見事の一言である。

そう言いながら、「大泉洋」のイメージとはかけ離れているのは、仕事人としてはカリスマ的である本作品の「速水輝也」は、家庭人としては、妻との関係は取り返しがつかない状態であり、不倫とも呼べないような淡白な関係である若い恋人にも弄ばれていたりして、それは、本小説においては、速水の人間性を高めるというか、完璧でない主人公に読者として共感できる極めて重要なエピソードなのではある一方、こうした影の部分をタレントである「大泉洋」はまったく感じさせることのできない部分であり、家庭人としても最高の夫であり、パパであるイメージしかない「大泉洋」って、人間的に本当に凄いなあって思ってしまうのである。

小説の中で、主人公「速水輝也」は家庭崩壊を招くとともに、以外にも仕事においても組織内派閥の争いの中で敗者として終わったかに話は終わりそうになるのであるが、最後の「エピローグ」では、敗者となって会社を去った1年半後に、予想通りの、いや予想を超えた勝者として描かれている。この気持ちの良い逆転劇は、強烈で爽快な心地よさを与えてくれるインパクトのある作品として記憶に残るものになったと思うのである。

小説の中での主人公「速水輝也」って、とてつもなく「仕事」ができる男であると理解はするのであるが、彼より少し歳が行っていて、長く生きている、つまりは先輩にあたる私にとっては、彼の「仕事」に対する熱量や姿勢の凄さに感心しつつも、気持ちの奥底では、同じ組織人として、いわゆる嫉妬のような複雑な気持ちも生じていしまうのも事実である。

それでも、私にもかつて「速水輝也」と似たように、若かりし頃には心の中にあった理想論的な社会像に向けての熱意を思い出させるものであり、今でもできることはあるのではないか?そういう前向きな気持ちには成りましたね。私も、小説内の彼ほどでないものの、小さな小さな一花ぐらい咲かせてみますか?(笑)

【追記】
 本書評を書き終えて、表紙の画像を探して、ネットでググってみると出版社のページにお奨めコメントがありましたので、それを完全引用させていただきます。

おすすめコメント

大泉洋 コメント

今回「騙し絵の牙」のカバーを担当させてもらいました。
もともと私をイメージして塩田さんが小説をお書きになられたというちょっと変わった作りの小説です。そもそも、この「騙し絵の牙」の発案の出発点というのが、雑誌「ダ・ヴィンチ」の表紙に出るとき、おすすめの本を一冊選ばなければならなかったことなんです。私は表紙撮影がある度に、「大泉エッセイ」を担当してくれていた同編集者に、いつも「お薦めの本、ない?」と、聞いていたんです。“映像化されて、私が主演をできるような小説”をと。それを、毎回訊かれるのが

彼女はめんどくさくなったんでしょうね。「じゃあ、もう大泉さんを主人公としてイメージした本をつくります!」と言ったのが始まりなんです。
今回速水というやたらかっこいい雑誌の編集長が出てくるのですが、あくまで塩田さんが私をイメージしたらこうなったというキャラクターです。たいがいダメなお父さんを演じるのが多い私ですが、今回は実に大人なかっこいい男で、この速水に扮してカバーも撮影しました。中にも私の写真が入っておりまして、私の写真集と言っても過言ではございません!

でも今、何より怖れているのが、この小説が映画化されたとき、速水役が私ではない、ということです。映画館で「特報」を観て、「騙し絵の牙」ってタイトルが出てきてるのに、主演俳優が違っていて「あー! 俺じゃない」って。
本書の帯のキャッチに<最後は“大泉洋”に騙される>ってあるんだけれど、<最後は“大泉洋”が騙される!>って。実はそれが“騙し絵の牙”だったんだと。それだけは避けたいですね。


塩田武士 コメント

実在の俳優、それも唯一無二の役者をアテガキにして小説を書く──。
芸能事務所の方と編集者と打ち合わせを続け、「完全アテガキの社会派小説」という未知の世界を前に何度もプロットを修正。新時代のメディア・ミックスに備えました。もちろん、大泉さんとも打ち合わせをし、その場で非常に鋭く厳しい読者目線のアドバイスをいただいたことにより、物語はさらに進化しました。それぞれの立場で、真剣に作品について考え続けた結果、私のイメージを遥かに超えた「小説の核」が出来上がったのです。

さらに主人公の速水輝也と大泉洋さんの「完全同期化」を目指し、私は大泉さんの映画やバラエティ番組作品中に速水が接待でモノマネをするシーンがありますが、それはほぼ全てが大泉さんのレパートリーです。改めて実感しました。こんな振り幅の大きい俳優はいない、と。取材、執筆に4年。今は「もうできることはない」という清々しさが胸の内にあります。「物語の内容が現実とリンクしていく可能性がある」──そう気づいたとき、読者の皆さまはどんな未来予想図を描かれるでしょうか?
本を愛する全ての人たちへ。さぁ、新しい扉を開いてください。

【ひと言】
やっぱり大泉洋を完全にモデルにして書かれていたのか。
どうりで、主人公の突っ込みやボケが大泉洋にそっくりなわけだし、そもそも大泉洋の写真を小説に使えるわけがないか。(笑)

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