【書評】嫌われる勇気 岸見一郎・古賀史健/著
大学生活を終え、社会人になってすぐの頃の少し寂しく不安な面持ちのころ、大学の先輩から、当時隆盛を極めていた「自己啓発セミナー」に強く誘われていた。
何事も合理的・論理的・経済的な思考を重視する私は、胡散臭いセミナーにそこそこの金額を払って数日間も拘束されるようなものに参加する意味がないと、その誘いを断り続けていたのであるが、あまりに何度も強く誘われる中で、最終的には好奇心から参加したのであった。
ところが結果的に、このときの経験はその後の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。
この後の行動様式というか、もっと言えば、生き様が変わったと言って過言ではないだろう。具体的には、これ以降の私は、「自分のことを信じ、ありのままの自分を好きになる」ことにブレが生じなくなったことで、確実に一歩前に進む生き方に変わったと思っている。
それまでは、合理的・論理的・経済的なことを重視する思考力は人並み以上に有していると思いつつも、どこか自分に自信がなくて、人の目が気になって、中途半端な行動に終始していた(若いころは誰でもそうだと思うが)のであるが、その後の人生において、(血液型がO型であることも関係しているのか、)ものの見事に周りの目があまり気にならなくなって、つまり他人の目にどう映るかを気にして、なんとなくやらない、前に進まないというような躊躇や停滞がほとんど無くなったのである。
一方では、そうした変化は、天真爛漫、唯我独尊、独断専行といった他者への配慮を欠いた独善的で視野の狭い行動につながっている部分も多くなっているとは少しは思うのであるが、人の目を気にしないということは、結局それについてもあまりクヨクヨしないのである。(笑)
ちなみに当時の自己啓発セミナーが巷で問題となっていた点を解説すると、自己啓発セミナー受講者の一体感は半端なく、そうした強烈な連帯感を基に、本セミナーがビジネスである以上、さらなる自己啓発を誘発させるようにできており、つまり、より上位で高額な自己啓発セミナーを受けることが「自己啓発しようという自分の思いに忠実に生きる」ひとつの試金石とされて、結果的に数十万円もする高額なセミナーの受講させられてしまったり、そればかりでなく、「他人の目を気にしない」という実践例として、自分の知り合いに積極的に宣伝・勧誘をすることを他人の目を気にせず自分を愛することの第一歩、あるいは有知の自分が無知な他者を救済するというか、他者に幸福を導いて貢献するといった、一種のすり替えのような理論もあって、それに一部のセミナー参加者は踊らされ、今では考えられないような、空恐ろしいほどの純真かつ真摯なまなざしで、執拗な勧誘を行っていたというところである。
しかし、皮肉なもので、そういう問題となっていた自己啓発セミナー受講者の執拗さが先輩にあったからこそ、自分は自己啓発セミナーに参加でき、今の自分になることができたのである。
さて、問題の多い自己啓発セミナーを受講した私であるが、その時の受講者たちとその後、1名を除き、特段仲良くなるわけでなく、上位のセミナーも受けることなく、まして他者を勧誘することもなく、するりと抜け出すことができたのである。それは、合理的・論理的・経済的な思考に加え、本セミナーで改めて確信できた、おのれ自身を信じるということがセミナー内のみならず現実社会でも実行できるようになったからで、主催者側からしたら皮肉なことに、より高額な上位の自己啓発セミナーを受けてさらなる確固たる自分を得たいという願望というか、その実、セミナー指導者への帰依のような他者依存が生じなかった成果ということなのだと思う。
そういう意味で、人生とは自立して前に進むことが重要だと思うし、本著にはそういうことが、何度も何度も繰り返し出てきていて、ある意味、自分の半生を顧みたとき、できてるじゃないかと、びっくりしたところである。
という余談を経て、本著の書評に入っていくのであるが、本著は心理学の解説書的な構成となっておらず、ストーリーとして描かれており、主人公は、アドラー心理学を理解していない、むしろ否定的な若者とかつては理解していなかったが今は理解し実践している老学者との対話により、アドラー心理学のエッセンスや本質を明らかにしていこうとする、哲学書らしい対話形式で話が進んでいくのである。
なので、少しじれったい展開となるのであるが、哲学に慣れ親しんでいない私にとっては、その冗長的な長さがある意味新鮮で面白かったし、主人公の自分に自信がなくて、一方では他者に対して懐疑的で、結局、前に進んでいないウジウジした生き方をしていながら、議論だけは負けたくないようなところは、昔の私を見ているようだった。(笑)
本著は対立する二人の対話という問答で話が進むため、何度も同じような議論が続けられるので、私レベルでは、なかなかわかりやすくエッセンスを伝えるのが難しいところであるのだが、私も自分の記憶にとどめておきたいので、本著の重要と思われるフレーズを箇条書きで書き留めることとしたい。
以下に気になったアドラー心理学を表す印象的なフレーズを抽出する。
・問題は世界がどうであるかではなく、あなたがどうであるか
・トラウマは存在しない
・人は怒りをねつ造する(怒りとは出し入れ可能な「道具」)
・大切なのはなにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うかである
・あなたの不幸は、あなた自身が「選んだ」もの
・これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない
・すべての悩みは「対人関係の悩み」である
・人生は他者との競争ではない、ただ前を向いて歩いていけばいい。今の自分よりも前に進もうとすることにこそ、価値がある
・人は、対人関係のなかで「わたしは正しいのだ」と確信した瞬間、すでに権力争いに足を踏み入れている
・人生のタスク
行動面の目標 ①自立すること ②社会と調和して暮らせること
心理面の目標 ①わたしには能力があるという意識 ②人々はわたしの仲間であるという意識
・われわれは「他者の期待を満たすために生きているのではない」
・自分の課題と他者の課題を分離し、他者の課題には踏み込まない
・自らの人生においてできることは「自分の信じる最善の道を選ぶこと」であり、その選択について他者がどのような評価を下すかは他者の課題であり、あなたにはどうすることもできない話である。
・自由とは他者から嫌われること
・対人関係のゴールは「共同体感覚」
・「他者からどう見られているか」ばかりを気にかける生き方こそ、「わたし」にしか関心を持たない自己中心的なライフスタイルなのです。
・ほめてはいけない、ほめるという行為には「能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれている。
・自らの価値の実感は、他者から評価されるのでなく、自らの主観によって「わたしは他者に貢献できている」と思えること
・「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」
・「信頼」とは他者を信じるにあたって、いっさいの条件をつけないこと
・人生とは今この瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那
・一般的な人生の意味はない。人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ
・世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、ただ「わたし」によってしか変わりえない
フレーズだけ読んでも意味はないので、本著を手に取っていただくか、漫画形式のものもあるようですので、そちらを手に取っていただければ、理解が進むのではないかと思います。
ちなみに本著は続編があって、その続編は「幸せになる勇気」で、副題は、「自己啓発の源流「アドラー」の教え2 」である。実はその続編の方を私は先に読んでいたのであるが、やはりこちらを先に読むことをお勧めします。(笑)
最後に、続編を読んでいることに気が付いて、本著を貸してくれた心優しい部下に感謝して、終わりたい。「良い本を貸していただいて、ありがとうございました。」
【結論】
全員から自分が好かれることはできない。
自分だけは確実に自分を好きになれる。
ありのままの自分は素晴らしい。
これらをまとめると、「嫌われる勇気」かな?
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