UTMB完走記その7
2日目の山場、UTMBを完走するかリタイアとなるかの大きなる分かれ道となるフェレ峠から20kmにも及ぶながーい下り、その後、リタイアを誘惑するエイドのシャンペへの登り、休憩したのち、真夜中のトリエンまでの登りと下りいう最も辛い二晩目の夜間走を耐えきれるか?
●アルヌーバを離れる(17:08)

アルヌーバに到着したランナーの背中とその向こうに見える白いテントがアルヌーバのテントです。
この後、川を渡渉し、フェレ峠(Col Ferret)への登りが始まります。
手元の自作のタイムテーブルを見ると、2時間でフェレ峠に到着する計画となっております。
息が上がっている現状では、かなり厳しい計画でしたが、とにかく諦めずに登っていくことに注力し、いつものようにトレイルの端をゆっくりとしたペースで進みます。
例の女性ランナーには、かなり早い序盤で抜かれました。
次に、中腹あたりでT部さんにも抜かれました。
そこは、少し傾斜が緩くなったところでもあり、しばらくはT部さんの背中が見える範囲で付いて行ってましたが、また傾斜がきつくなったところで、一気に離され、T部さんの姿は見えなくなりました。
長く厳しい登りが続く中、邪魔にならないような端っこのトレイルを抜かされても、ほぼ休まず進み続けて、前に進みました。
ガスは濃くなり、気温も低下しておりましたが、必死の登りで寒くはなかったです。
何度も腕時計の高度表示を確認しながら、2500mを突破したところで、傾斜も緩くなる中、ついにフェレ峠に到着しました。国境を越え3カ国目となるスイスに入りました。
●Col Ferret(101.3km)順位1837位(+35) (19:15)

目標とする区間2時間は達成できませんでしたが、2時間14分と思ったより、タイムが悪化することなく、フェレ峠を越えることができました。
峠なので風は強く、気温はかなり低下し、雪が舞っておりました。
ほとんどのランナーはすぐに下っておりましたが、この長い下りを存分に走りたい私は、両手を空けるため、ここでポールをリュックに仕舞うとともに、もうじき迫る夕闇に備えてヘッドライトを装着しました。
仕舞ったら、コースでもっとも走りやすく長い下りに向けて、スタートしました。
ガスは濃く、見通しは悪い中、下りを淡々と走ります。
霧の中から、ランナーの背中が見えて、追いついて、抜くということを延々と繰り返しつつ、先ほどフェレ峠の登りで私を抜かしたランナーを抜き返していきます。
ここの下りは本当に走りやすい傾斜の下りで、トレイルの状況もそれほど悪くなく、前回はぶっ飛ばしたのですが、今回はすでに体調不十分で、ゆっくりと思っていましたが、走り始めると、調子が出てきて、結局、前のランナーを抜くという作業を繰り返していると、自然とスピードアップしてました。(笑)
その序盤で、1時間前くらいに抜かれたT部さんが先頭で何人かを従えて下っていたので、それほど広くないトレイルの崖側に盛り上がった部分を颯爽かつ軽快に駆け下り、一気に抜いたりしました。
前回はフェレ峠の通過が夜の8時で、すぐに日が暮れたのですが、今回は少し早い展開で、できるだけ明るいうちに駆け下ろうという意識も働き、がんがん追い抜いて下った。
そのうち、苦手な上りが出現したが、勢いがつくと不思議なもので、そうした上りでも抜かれるどころか、抜かしながら進んだ。
樹林帯に入り、暗くなったところで、ライトを点灯。
先は長いので、疲れないよう、転ばないよう、慎重に走る。
やがて川沿いの広い道に出て、そろそろフーリーだろうと、ほとんど傾斜のなくなった舗装路も一応、歩かずに進んでいると、フーリーに到着した。
●U12 La Fouly(110.89km)順位1705位(-132) (21:04)

まずは、久しぶりにトイレに立ち寄る。ここもトイレは1基。待ち行列ができていた。2500人も参加するレースなのに、エイドに男子トイレ1基とはいただけない。道理でコース上での立しょんが多いはずだ。
●エイドの食料1

左から、バナナ、クラッカー(前半よく食べました(笑))、ケーキ?、ゼリー飲料、チョコクッキー
●エイドの食料2

左からビスケットクッキー(後半よく食べました(笑))、以降不明
体を温めるべく、ここで、初めて塩味スープをいただきました。
今回から使い捨て容器がなくなり、このスープも携行したマイカップに注いでもらいました。
スポーク(スプーンとフォークとナイフが一体化したプラスチック)を携帯しておりましたが、ザックの奥から出すのが面倒で、そのまま食すると、温麺みたいな細いパスタは、ほとんどカップのそこに沈殿してしまいました。仕方なく、水を注いで、取り出しました。
スープは3年前と変わらずの懐かしい味でしたが、以上のように面倒なことが起きたので、別の温かい飲み物を探していると、Tea(紅茶)を見つけました。
角砂糖を二つも入れるととても甘くて、元気の出そうな飲み物となり、それにクッキーと一緒にほおばると、クッキーが噛むことなく口の中で溶解し、さらに美味しい飲み物となり、
トイレ休憩もあり、19分の滞在でフーリーを出発。
エイドの中は、フェレ峠を越え、そこからの長い下りで、しかも二晩目が始まったということで、かなりどんよりした雰囲気となっており、そこの悪影響を受けたくなくて、ちょっと逃げるような感じで出発した。
まずは、樹林帯で、幅は広いが石がごろごろして、足元が悪いトレイルに入る。下り基調ながら、小さいアップダウン、さらには曲がりくねっており、疲労も強くなって、スピードは出ない。
そんな私以上に疲労しているのか、コースのそこかしこで、休んでいるランナーが散見され始める。高度が低くなり、樹林帯でもあるので、休みやすいからでもあるのだろう。
その後、谷沿いの斜面の、UTMBのコースとしては割と狭いトレイルに変わる。外国人ランナーの苦手な下り基調で、しかも狭いので前が詰まった。
こちらもいい加減眠くなってきたので、しばらく、その列に付き従って、まさにだらだらと進む。
そのうち、後ろから来たランナーが抜かしていった。それに倣うように、眠気覚ましに、狭くて片側が谷のトレイルながら前のランナーを少し広いトレイル部分で、順々に抜かし始め、やがて先頭ランナーも抜いて、その後は、後続を引き離して進んだ。
それが終わると、尾根っぽい樹林帯に直線的に整備された無舗装林道のようなトレイルになった。ここは印象深くて、記憶が鮮明なトレイルで、足元にごろごろ石があるのはこれまでと同じであるが、幅広かつなだらかな下りで実に走りやすく、休まず無心で走った。
疲労と眠気も最高になる区間でもあり、そこかしこでランナーが座っていたり、横たわっていた。(後で師匠とレース展開を振り返ると、この区間で師匠を抜かしたことになっている。はっきりした記憶はないのだが、どこかで師匠が少し座って休んでいたりしたときに気が付かないで抜いたのだろう。)
自分もかなり眠くなっていて、サロマ湖ウルトラの時に、バカロード師匠からいただいたカフェイン錠を持っていて、投入しようかと思ったのであるが、過去、興奮剤投入が体調悪化を招き、リタイアしたパターンを思い出し、我慢して進むことにした。なので、眠くて眠くて仕方がないまま、この区間は歩きはしなかったが、ペースダウンして進んでいた。
その後、舗装路になり、小さな街を抜けて、真っ暗で回りは見えないが、恐らくは畑の中の舗装道路を下ると、下りきって、シャンペへの登りに変わった。
長い下りの間、ずっとザックの後ろに格納していたポールを取り出し、組み立てて、登りに入った。
この登りは、樹林帯を登るもので、自分の感覚的には、トレニックワールドin彩の国のサウスコースの最初の登りに似ている気がします。
だらだらと登らされて、ぐるりんと遠回りさせられて、まだか?まだか?と焦らされて、やっとエイドにつくっていう感じで、今回もシャンペに到着しました。すぐに外にあるトイレに並び、このレース中で初めて、だいぶすっきりして、エイドに入りました。(笑)
追記:
実は後日、師匠から、シャンペの登りで師匠は私に声をかけて抜いたとの話を聞いた。
「抜いたことを覚えていますか?」と尋ねられたが、「まったく覚えてないです」が私の答えでした。(実際のこのブログ記事にもそんな記述はしていない)
師匠曰く、かずさんは、かなり眠そうで、目がトロンとしてたから覚えてないかな?っと思ったそうで、まさにその通りでした。(笑)
この区間は、街を除けば基本的に真っ暗なコースでもあり、写真はなく、しかも眠気も最高潮で記憶も曖昧な区間です。
●U13 Champex(124.79km)順位1624位(-81) (00:55)

うつむきながらのガッツポーズが疲れと眠気を表してますね。(笑)
●倒れているランナーたち

まず目についたのが、疲れ切ったランナーのみなさん。
仮眠スペースなのか、単に空きスペースに寝転がっているのかは、よくわかりませんが、限界を超えて、横になるしかないランナーが距離124km、30時間を超えると多数いるということです。
●大エイド(00:55)

疲労して、寒くて、眠いこの時間帯にこれだけの大エイドで座るところがいっぱいあれば、腰を下ろして休みたくもなりますわね。
しかし、それこそがこの時間帯だと、大いなる罠(トラップ)と化すのです。
前回はここで腰を下ろし、突っ伏して、少し(5分くらい?)寝ました。それは主因ではないのですが、最終的に、最後の関門での時間オーバーでのリタイアとなったこともあり、今回は腰を下ろすことなく、立ったまま、給食給水を済ませました。
温かくて甘い紅茶で体を温めつつ、クッキーを何枚もバリボリ食べました。
クエン酸補充とばかりに、オレンジも何切れも食べました。
トイレ休憩はしなかった(たぶん(笑))ので、わずか9分の小休憩で出発できました。
まず真っ暗なシャンペ湖の脇を進みます。
「あっ」と声を出し、何かを忘れていたことを思い出し、寒い中、ベンチに座って何か作業したことは覚えているのですが、何をしたかは覚えていません。ライトの電池交換だった気もしますが、そうでない気もします。(笑)
しばらく舗装路を下り基調で進みますので、ここは走るべきポイントですが、眠くて眠くて、「ねみー、ねみーぞ!」と声を出しながら、走っているとは言えないスピードでヤケクソ気味に走りながらも、やっぱり眠気より体調不良のほうがリスクが高いと思いから、カフェイン錠は飲めねえって思いつつ、進んでいました。
このまま、無舗装林道につながり、延々と走れる記憶だったのですが、予想外にトレイルに入ってしまいました。記憶違いなのか、コース変更なのかは判然としませんが、私の記憶的にはここは無舗装林道だったと今でも思っています。
ここのトレイルは小さなアップダウンがあり、また根っこが多くて走りづらいトレイルであり、さらに眠いことから、下り基調ながら、スピードがでず、当初想定していた時間での踏破が難しくなってきました。
トレイルを抜けて林道に出ると、見覚えのある牧場施設?の前を通り、記憶がつながりました。「前はここまで無舗装林道で進んだはず」と思ったのですが、ひょっとすると前回は間違えて直進して、偶然コースに戻ったのでは?という疑念が、今、これを書きながら思ったりもしました。真相は不明です。(笑)
この後は、本格的な山登りとなり、大きな石や岩のある登山道をぐんぐんと登っていきます。前回は制限時間に追われていると勘違いしたので、全力でガンガン登りましたが、今回は時間的な余裕があることと、すでに脚が売り切れつつあるので、ゆっくり登りました。なので、相当な数のランナーに抜かれました。
山の上の草原みたいなところとか、ミニつづら折りのあと、トラバース気味に横に走るところとか、先が見通せるコースでもあり、おおむね記憶通りのコース展開をみせ、進んでいきました。
●街の灯り(03:57)

二晩目はよく晴れているようで、かなりの山の上、700mくらいの標高差のある眼下の街の明かりが見えましたが、たぶん、この明かりは目指すべきトリエンではない別の街だと思います。
ここで幻覚だと思うのですが、この眼下の灯りを見ていると、黒い部分が大きな建造物の影に見えて、こんな山の上に宇宙基地のような巨大な建造物があるんだ・・・。それとも駅か?なんて思いながら進んでいましたが、こんな真っ暗な山の中にそんな大きな建造物はあるはずもありませんね。
気が付くと登りが終わって、下りになりました。
少し下ると、チェックポイントに到着。
牛舎みたいな場所がチェックポイントで、とても寝られるような場所でないのですが、何人かのランナーはサバイバルブランケットにくるまっていました。
●La Giete(136.57km) Su 04:26 34:24:32 順位1430位(-194)
1000mもの登りなのでコース上ではかなり抜かされましたが、シャンペでの休憩が短くて、194人も抜いたことになっております。
ここからは下り基調。自然とスピードアップして、下りでもたつくランナーを抜かして進みます。
途中、登り返しがありますが、下り基調だとそれほど抜かされることなく登りを通過し、これも前回と少しコースが変わったのではないかと思いながら、激下りを経て、跨道橋を渡り、トリエンの街に着きました。
●U14 Trient(141.47km)順位1391位(-39) (05:36)

前回は明るい時間帯の到着だったが、今回はまだ暗い中での到着
前回より1時間20分も早い。そして順位はレース中最高の順位となっていた。(といっても真ん中より後ろであるが)
これだけ苦闘して速度低下を起こしているのだが、休まず前に進むという戦略が順位を押し上げたということだろう。(現地では順位を知らないので今思ったのであるが)
●エイドの様子(05:37)

ここも座らずにクッキー&紅茶で給食給水。
トイレ休憩を含めて、14分の休憩で出発した。

登攀力が低下し、苦しいながらも、エイドに入るときには見つけられなかったビデオカメラを見つけて、完走に向けて、時間的余裕が出来たことをみんなに知らせたくて、思わずピースサインをしてしまった。
でも、油断はならない。
ここからが、本当に正念場の最後の2山なのだから。
次>:UTMB完走記8(最後の2山編)
前<:UTMB完走記6(高原からアルヌーバ編)
参考1:2015年のUTMBレース記録(アルヌーバからシャンペ)
参考2:2015年のUTMBレース記録(シャンペからトリエン)
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