【書評】九十歳。何がめでたい 佐藤愛子/著
「いちいちうるせえ」の喝でファン激増
大正12年生まれ、92歳の大作家。その最新エッセイ集が、高年齢層から若年層まで世代を超えた共感を集め、大ヒット中だ。
「本の元になった雑誌連載のきっかけは、2014年のインタビューでした。そのとき先生は小説『晩鐘』を書き上げ、断筆宣言をなさった。それは、もう書き尽くしたという思いと、長年の執筆による指の痛みが理由でした。しかし、それでもどうしても書いていただきたいと何度も先生に執筆のお願いに伺い、最後は、90歳を超えて感じる時代とのズレについてならば……と半ばヤケクソで(笑)、快諾していただけました」(担当編集者の橘高真也さん)
エッセイには、動作音が静かになって接近に気付けない自転車、よくわからないスマホ、犬や子供の立てる騒音に苛立つ人たち、いたずら電話など、多彩な事象に憤り、嘆く著者の姿が描かれている。基調をなすのは、「いちいちうるせえ」の精神だ。〈イチャモンつけ〉には定評のある著者も呆れる、些末なことを気にする人の多さ。この言葉は、多くの人が言葉にできなかった心情を言い当てたのだろう。インターネットで共感の輪が広がり、さらに読者層が広がったという。
原稿はすべて手書き。
「満身創痍の体にムチ打って、毎回、万年筆で何度も何度も手を入れて綴ってくださいました。おかげで、92歳の今だからこそ書ける、新たな代表作が生まれたと思います」(橘高さん)
評者:前田 久(週刊文春 2016.11.22掲載)
【感想】
私は古い考え、例えば男尊女卑的かつ子どもの虐待と言われるぐらいの父権の強さこそが子どもたちの人間形成に必要であるとか、LGBTを理解しつつ、それでも不寛容的に家族にこだわることとか、世の中の便利さに流されて失っているものがあるだろう、みたいな考えを持っている。
最近はそうした考えに賛同してもらうことも少なくて、別にそれは仕方ないと受け入れているのであるが、本著を読んで、著者、といっても私にとっても母、いや祖母に近いような年齢差ではあるのだが、その考え方・価値観が完全に一致していることに驚くとともに、とてもとても、無性に嬉しかった。
しかも、本エッセイは、エピソードの面白さが、作家ならではの闊達で流ちょうな文体で構成されて、声を出して、笑い転げながら一気に読むことができた。
読売新聞の人生相談を読んでの感想あたりは、まったくもってその通りだと思う。
まだまだ我々世代の軟弱さを、ぴしゃりと叱っていただきたい。(つまり続きが読みたい)
そして、こんな年寄りになりたい、なんて思ってしまった本でした。
それから、佐藤愛子さんの著作、まだ読んだことないので、近いうちに読まないとね。(笑)
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