【書評】暗幕のゲルニカ 原田マハ/著
【ストーリー】
反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した――誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。
【読書感想】
戦争について、日本ではここ70年以上、戦争未体験で、ほとんどの日本人は現実の戦争を知らない。
私も当然、現実の戦争を知らないのであるが、戦争の歴史、つまり戦史好きで、戦争関係の本はもちろんのこと、映像として戦争のドキュメンタリーや戦争映画を好んで観るので、戦争のことは何となく知った気になっている。
ところが、本著は、そういう訳で選んだのではなく、本屋大賞ノミネート作品ということで、たまたま巡り合った本であるが、ミステリー調で、現代の反戦の重要性を見事なまでに謳い上げている。戦史好きで保守タカ派気味の私ですら、戦争はいかんと思うのだから。
この話の素晴らしいところは、ピカソのゲルニカという絵画作品が神のごとく、この話の中で絶対的な唯一無二な存在として鎮座していることである。
美術には詳しくない私でも、ピカソのゲルニカは知っていた。
一度見たら忘れられないほど、インパクトのある作品であるし、ゾッとして、心がささくれ立つ作品である。(本著の表紙の絵がゲルニカである)
※『ゲルニカ』は、スペインの画家パブロ・ピカソがスペイン内戦中の1937年に描いた絵画、およびそれと同じ絵柄で作られた壁画である。ドイツ空軍のコンドル軍団によってビスカヤ県のゲルニカが受けた都市無差別爆撃を主題としている。
本著では、2つの時間軸が存在し、ひとつは1937年のピカソがのゲルニカを描き始め、アメリカに移送され、ピカソが1944年のパリ解放までの第二次世界大戦中の話と、もうひとつは、2001年の9.11からゲルニカのニューヨーク展が開催されるまでの話が、交互に進んでいくのである。
天才ピカソが、渾身の力で戦争の残虐さを描くその過程を愛人の写真家ドラ・マールが写真に収めたらしい。ピカソの制作過程が写真に撮られた例は、非常に珍しいことらしく、その点からもピカソの思いが感じられるところだ。
さて、この愛人ドラ・マールであるが、彼女もモデルとしたピカソの作品があるそうだ。「泣く女」がそれらしい。
うーん、この作品のモデルですって、自慢にならないけど、これまた確かにすごいインパクトがあって、有名な作品だよなあ。
話がそれたが、このゲルニカという作品が無差別爆撃という現代の戦争の醜悪さ、さらには人間の残虐性を表しているというのも、納得の作品で、人間の美的感覚的にも生理的な嫌悪感すら抱かせるような、計算された作品であることは間違いない。これを見ていたら、心が落ち着かなくなるもの。
で、ミステリーの部分は、多分に現代のお話の方で、ピカソ研究の第一人者の主人公が最愛の伴侶を9.11で失い、戦争の残虐さを身をもって感じた中で、国連のゲルニカのタペストリーに暗幕がかけられた、反戦を隠し、あたかも戦争賛成を意味するような事件と歴史の流れを食い止めるべく、立ち上がって、スペインの美術館から隠すように展示されているゲルニカをニューヨークで展覧するために、妨害工作を受けながら、仲間の支援を受けながら奔走し、反戦の象徴的存在であるゲルニカはどうなるんだという、手に汗握る展開になるのだから、著者のストリー展開とメッセージ性の強さには脱帽せざるを得ない、見事な作品でした。
読後は、ピカソの作品、特にゲルニカは、絶対に本物観てみたいと思いました。場所はスペインか・・・(笑)
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