【書評】まっぷたつの先生 木村紅美/著
今年我が家に届いた年賀状の中に、中学一年生の時の担任の池田先生からの年賀状があった。ここ2,3年、先生から年賀状をいただいていなくて、今年は遠慮して出さなかったのだが、元気な知らせに驚くとともに、嬉しくなった。
池田先生は、英語の先生で、その時すでに、学年主任だったし、容貌体形からも中年だったし、すでに40年経過していることから、御年80歳は優に超えているはずで、ひょっとすると90歳を超えているかもしれない。
そして、先生たちとの交流、といっても年賀状だけなのだが、それすらすでに私の場合は池田先生だけとなっている。
その要因を探れば、まず若い先生が私の担任にならなかったこと、それ以上に、私が、個性の少ない、印象深くない生徒であったということ、さらには小中高と過ごしたのは遥か四国の松山で、いまや同級生との交流すら、顔を合わせるのは、数年に1回程度なので、この現状はある意味仕方ないだろう。
さて、書評なのに、こんな私の話をしているのは、本著のストーリーが、担任の先生と生徒との、15年から20年経過した後の、SNSを通じての交流の再開をきっかけとして、学生時代のそれぞれの躓きを振り返りながら、その呪縛からの新たなる旅立ちというお話だったからである。
アラ50となった女性2人の先生(ひとりは現役の先生でないのだが)とその教え子2名(それぞれ年齢も学校も違い面識はない)が現実社会では正社員と派遣社員の関係が生じているものの、それぞれはそうしたつながりを知ることなく、しかしながら現実社会でのそれぞれの行き詰まりは、小学校時代の先生との関わり(片方は良い思い出、片方は悪い思い出)がその原因と思いつつ、そのわだかまりが、最後には溶け始めていくというようなお話でした。
最後に大団円があるかと思っていたら、そこは人間関係は希薄だがネット関係では繋がり続けられるという現代社会らしい、現実社会でのすれ違いで終わるあたりは、もはやアラ50の私では思い描けない感性であった。(著者は私より一回り若い)
現実社会で顔と顔を突き合わせての関係とネットでの距離・年齢・時間を超えた関係が交錯しながら展開が進むこの小説は、現代社会を歪なく、ありのままに描いていると感じたし、それを面白い小説に昇華させている点で、今まさに旬な、お薦めの小説でありましたので、ご紹介した次第です。
ご興味が出ましたら、是非ともご一読のほど m(__)m
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