【書評】奴隷のしつけ方 マルクス・シドニウス・ファルクス/著 ジェリー・トナー/解説 橘 明美/訳
古代ローマ人であるマルクス・シドニウス・ファルクスから聞き取って現代人のジェリー・トナーが解説しながら記述したという形式の古代ローマ人にとっての人心掌握術たる奴隷管理マニュアルであり、これは現代の組織マネジメント本として参考となるような本である。
このような本がなぜ今この世に出るのかといえば、売れると見込んだからであり、その心は、現代に役立つものであるということであろう。
さらに、奴隷というもはや存在しない者を対象として、古代ローマ人に語らせているゆえ、本著を読んだ人の様々な思いを想起させ、そのため多種多様な論評が論じられており、それらを垣間見るのが面白いため、読んだ方が良いという不思議な本となっているし、それに私も参戦しようと思ったりした次第でもある。(笑)
アマゾンに出ていた商品説明は以下のとおり
『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』のヤマザキマリ推薦!!
「古代の大帝国を支えた奴隷越しに 我々の生きる現代社会が見えてくる」
古代ローマ貴族が教える、究極の“人を使う技術”
◆奴隷の買い方
→若いやつにかぎる
◆やる気を出させるには
→目標を持たせ、成果報酬を採用しろ
◆管理職にするなら
→顔の良い男は避けろ
◆拷問の行い方
→奴隷は資産。適度な鞭打ち、鉤吊りを
◆性と奴隷
→家族を持たせて人質に
◆反乱を防ぐには
→互いに話をさせるな
他、古代ローマ社会を知り、立派な主人になるためのヒントが満載!!
【感想】
ヤマザキマリさんが推薦しているが、実際は表紙の絵を書いており、利害関係者ゆえにあまり参考にはならない。(笑)
古代ローマ人の生活はあまり知らないが歴史は大好きという私のような人であれば、全編、好奇心が切れることなく読み進められると思うが、そもそも歴史はどうもという人には、ちょっと厳しいかも。
それでも、まず、アマゾンのカスタマーレビューを読むと面白い。
「日本の労働者も古代の奴隷と同一ということがよくわかりますね。ブラック企業の労働者は、古代の奴隷より、さらに不幸かもしれない」
というような感想があまた出現しています。
我々が読む以上、現代社会に置き換えるのが一般的な感想なのでしょうが、基本的人権が存在する現代社会とローマ時代が似ていると論じることがまったくもってよくわからない。
なぜなら現代日本でブラック企業で働かせられている人たちも、ひとたびブラック企業を辞め、努力して経営者となれば逆の立場になることもあり得るそういう社会である。
一方、ローマ時代の奴隷は、冷酷な主人であれば一生奴隷のまま使役され、仮に寛容な主人に恵まれていたとしても、奴隷から解放されるには奴隷その人の意思ではなく、主人が解放する意思と手続きを取ってくれなければ、ローマ人としては認められない。私に言わせれば、完全に似て非なるものである。
カスタマレビューで参考となったと評価が一番高いコメントは以下のとおり
<コメント>
奴隷とは、現代社会の労働者と限りなく同義であることがこの本によって見えてくる。
企業や企業の人事部を奴隷所有者、人材斡旋会社を奴隷商人と捉えると、奴隷=労働者の扱いのhow toが千年以上前と変わっていないことがわかる。
奴隷制度がなくなっても、システム自体は消えていない。これからも消えないのだろう。
労働者側に回ってはならないということ、経営者としての労働者の正しい扱い方、の2点において大変参考になった。
<以上>
うーん、そこなんですか? 確かにマネジメントの考え方は、昔も今もあまり変わらないでしょうが、そこから得られる教訓は、労働者より経営者になることなんですか?
実は私が、本書において、もっとも印象に残った一文は以下のところである。
第9章 奴隷の解放
ある日、すでに解放されていた元女奴隷が訪ねてきて、愛人関係にあった男奴隷をわたしから買い取りたいといったのだ。
その女は長年よく仕えてくれたし、わたしの息子を三人も産んでくれたので、それを思うと断ることなどできなかった。
わたしの場合、女奴隷の解放については、出産適齢期を過ぎるか、何人かの子供を産むまでは考えないことにしている。家内出生奴隷を増やしておくことは重要なので、女奴隷をあまり若いうちに解放することは、主人の立場ではできかねるのだ。
本著の著者が言いたかったことは、奴隷の管理は現代のブラック企業と似ているとかの短絡的な話だったのかもしれないが、仮にそうした著作であったとしても、そこから得られる、人間が確かにその時代に行っていたこと、つまり過去の所業が、歴史を紐解こうとした著作の中にはちりばめられており、まずは歴史的事実としての真実はなにか?を見逃さずに、知識として知る、つまり認知することから始めるべきなのではないでしょうか?
私にとっては、先の一文の衝撃度合いは、凄まじいものがありました。
そういう社会があったのかと・・・。
男尊女卑といえばそれまでの話ではあるが、女性のおおらかさ、したたかさ、底知れぬ強さを感じさせるエピソードだと思ってしまう。
昨今の不倫騒動って、人類の進化の産物であれば良いのだが、矮小化しているような気がしてしまうのは、杞憂であれば良いのだが
マネジメントとか現代のブラック企業に通じるとかを遥かに超越した、現代のわれわれには理解不能にも近いが、それはそれで秩序が確立された社会があったのではないかということ、歴史的事実こそに衝撃を受け、歴史の奥深さを改めて感じた著作でした。
(ただし、本著は1次資料をどこまで正確に読み解いているのかが、著者の略歴やローマ時代の基本的な知識が少ないため判断できかねるので、私としても実のところ、本著が事実に基づいて書かれているとお奨めできるとも何とも言えないのですが(笑))
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