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2015年5月 7日 (木)

【書評】日韓歴史認識問題とは何か 木村幹/著

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実に真面目に日韓歴史認識を扱った著作である。著者の個人的主張は封印し、研究者として、日韓歴史認識問題の原因と本質を明らかにしようとしているし、かなり明らかにできていると読後に感じられた。少し難解ではあるが素晴らしい著作であった。以下、本著からの引用で紹介したい。

【分析者としての対場から】
筆者は今、この文章を一研究者として記している。歴史認識問題における筆者の役割は、直面する歴史認識問題の解決や緩和のためのアイデアを提供することである、と信じている。(中略)
医者としての立場と、患者の家族としての立場が厳然と区別されるように、歴史認識問題についても、分析者としての立場は、厳然と分離されるべきであると思っている。(中略)
あるところで、一人の子供が高熱を出して苦しんでいる。母親は、こうなったのは子供が昨晩、毛布をかけられずに、寝かしつけられたからだと主張し、添い寝した父親の責任を追及する。それに対して父親は、自分はきちんと毛布を掛けたはずだと反論し、夫婦の間では延々と議論が続けられる。病気になった子どもの兄弟たちから「証言」が集められ、子どもの寝室の乱れ具合が入念に「検証」される。不毛な議論が続く中、肝心のこどもは病院に連れて行ってもらえないまま放置されている。

【朝鮮半島研究をめぐる悪循環】
歴史認識問題において直接関係ない朝鮮半島の研究者に「踏み絵」(日本の韓国のどちらが正しいかという論争)を迫るような状況は、多くの優秀な研究者を朝鮮半島にまつわる研究から退出させる効果を持つことになる。(中略)
重要なことは、このようなイデオロギー的論争を忌避する研究者の退出が、結果として、朝鮮半島研究においてイデオロギー的論争を好む研究者が占める割合を大きくさせることである。
そして、イデオロギー的論争を好む研究者の割合の増加は、朝鮮半島研究そのもののイデオロギー性をさらに一層高める効果を持つことになる。

【歴史認識問題を考えるための理論的枠組み】
「過去」は「過去」である以上、いったん確定すれば、それ自身が変化することはない。にもかかわらず、この「過去」に対する我々の関心が変化しているとすれば、それは「過去」でなく、「過去」を解釈する「現在」の我々の理解が変化しているからに他ならない。

【歴史認識の重要性】
「歴史」と「歴史認識」の関係は、「歴史」があって「歴史認識」が存在するのではなく、「歴史認識」があって初めて「歴史」が成立するという関係になっている。
「歴史」が人々によって選び抜かれた「過去」の事実から構成されたものである以上、そこには必ず選び出した人々の価値観が反映されている。
だからこそ、「歴史」とは常に主観的なものであり、また、主観の産物でしかない、ということが出来る。

【韓国政府の戦略と従軍慰安婦問題の基本構造】
日韓基本条約とその付属協定に正面から挑めば、日本側に門前払いされ、少しでも日本側に妥協する動きを見せれば、自国世論の強力な反発に直面する。
この深刻なディレンマを克服する方法として、韓国政府が(意図的か結果的にはともかくとして)選択したのは、「従軍慰安婦問題の『解決』方法を日本政府に『丸投げ』する」ことだった。

<ひと言>
一言で現在の日韓歴史認識問題は、双方が双方にとって有利な歴史的事実を相手側に求めるだけでなく、アメリカをはじめとする世界各国に認めさせようと、まさに悪口合戦となっているということだ。そして、それはもはやどちらが悪いということでもなく、なので永遠に決着が付きそうにない状況である。

著者が本著を上梓したのは、両国の研究者がイデオロギーありきで相手側の主張を認める気がない研究者が多いことへの憤りが主たる要因に思える。

その結果、もはや両国が折り合える歴史認識がなくなっている。

著者は解決の答えをこう述べている。

「自らの要求が省みられないことの原因が、相手側が自ら重要でないと考えていることにあるなら、行うべきは自らの重要性を相手側に今一度理解させ、我々と協力するインセンティブを再構築することである。重要なのは「彼ら」にとって「我々」がどう重要なのかをきちんと説明することであり、さらにはこれを相手国のエリートのみならず、相手国民に対して粘り強く伝えることである。」

うーん、確かにそう思うが、無理じゃない?と私はこれまでの両国の歴史的経緯を踏まえると思ってしまうのである。

私が日韓歴史認識問題を解決する方法として提案するなら、本著の著者の木村幹氏(日本人)と「大韓民国の物語 韓国の「国史」教科書を書き換えよ」の著者の李榮薫氏(韓国人)の両名によって決着をつけてもらうのが正解なのではないかと思えるほど優れた著作であると思っている。

追記
 著者の意図するところではないと思うが、韓国が最も言われたくない歴史認識は著者の分析から明確に明示されていた。
 「1910年の日韓併合の合法性」が韓国人が今なお絶対に認められない歴史認識のようだ。
 いつか必ず誰かが気が付いて、日韓関係における主要な争点となるだろう。

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