【書評】アベノミクスの真実 本田悦郎/著
安倍総理公認と表紙にでかでかと書かれている。
理由は著者が静岡県立大学教授ながら安倍内閣官房参与でもあるからだ。
なので読まないわけにはいかない。特に「アベノミクスの終焉」を読んだ後だけに
本著を読むまでもなく、私はアベノミクスのことをすでにある程度は理解しているつもりであるし、なにより日銀の国債買い入れには賛成している。
賛成しながらも円安については、国の通貨が安くなるということには違和感を持っていた。
長く円高を問題視してきた日本のマスコミ報道や世間の論調に私は真っ向から間違っていると思ってきた。
なぜなら歴史的に国の通貨が高い国は決して亡びない。逆に国の通貨が安くなることを止められなくなったとき、国家は亡びるという歴史的事実があるからだ。
その円高という結果にのみ気を取られ、その理由は日本の製造業の力が強いと思っていたのであるが、本書を読んで、円高の理由はもっと別の要因であることをはっきりと理解できた。
円高は日本のデフレによる実質金利の国際的優位性が原因であったというのだが、なるほどである。
なるほどと思いまながらもインフレターゲットによる緩やかな物価上昇で本当に抑えられるのか?というのはまだ不安視してしまうところでもあるのだが、イギリスは通貨供給量を3倍まで増やしてきて通貨インフレを起こしていないという事実は認めざるを得ない。
なにより、この20年間、デフレで日本経済は苦しんだ(私はそれなりに得した気もしているが(笑))訳で、適度なインフレは国家財政上もメリットが大きい上に、製造した工業製品の輸出で成り立つ日本の場合は、基本的に円安はメリットしかない。
それでも世界各国の通貨がジャブジャブな状態で、どこかで信用不安が起きたとき、信用収縮に耐えられない国、つまりは新興国はたまらないという状態をアメリカや欧米、日本といった経済先進国がその絶対的優位性のうえに胡坐をかいていていいのか?という道義的な一抹の不安があるが、それが資本主義経済なのでもある。
(しかしその資本主義強者による搾取が世界の不平等を生んで、中東にみられるイスラム教過激派の台頭につながっているのだが、それは政治の問題として別に論じることとしたい。)
あとはアベノミクスの三本の矢がすべてうまく行くことが重要なのだが、それにはTPPの妥結の仕方にもかかってくるのだが、私の歴史的認識としては、日本はどんな不利な状況であっても、ルールが固まれば、その中で、国民全体で不断の努力を続け、着実に進歩していくという文化がある。
幕末時の不平等条約後も日本は世界の帝国主義体制の中できちんと台頭したし、第二次世界大戦の敗戦後もしかりである。
スポーツにおいて、ルールの変わりにくい陸上や水泳競技において、日本人は肉体的なハンディキャップを負いながらも、それなりの成績を残す選手が出ている。どうような肉体的特性を持つ東アジアにおいても特筆すべき事績であろう。
バレーボールだって、スキーのジャンプや複合だって世界一になった後、ルール変更により、日本は弱くなっただけである。
TPPは多国間協定であることから、ルールはそうそう変えられないので、少しでも有利なルールであればそれはそれで良いのだが、関税の撤廃はともかく、日本人が大事にしたい食糧食品・工業製品の安全性や国民皆保険や医療制度・介護保険制度などは参入障壁などとして葬り去られるべきものではないと思う。
その点、著者も苦言を呈しており、そういう意味で、本著を私は共感できる内容であった。
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