【書評】靖国神社 島田裕巳/著
宗教学者である島田さんの著作をなんだかんだでよく読んでいる。一つはその歴史的経緯を重んじていて、なぜ今に至っているのかを、解き明かしてくれるからである。
本著はタイトルどおり、今や日本の主たる外交課題と課している「靖国神社」をそうした観点から市から解き明かしてくれている。
もともと神様を奉るのが神社である。ところが神社のうち、相当数は人間を祭っている。例えば学問の神様、菅原道真や豊臣秀吉、徳川家康などである。そして靖国神社にいたっては、国に殉じた武士や兵隊さんを複数、すでに200万人以上を奉っているという特殊性のある神社であること。
靖国神社と呼ばれる前は東京招魂社、つまり魂を招くところなのであったのであるが、それは戊辰戦争での官軍たる新政府がその権威を江戸から東京と名を変えただけでは人心を得られないため、その正当性を明らかにする一つの手段であったという見解。さらに時の明治政府が神道中心の政策をとったことから、社殿が建てられ、いつの間にか神社となったという歴史経過が明らかにされている。
日清戦争からの対外戦争により、この靖国神社の地位権威が高まり、敗戦を迎えるまで、それが続く。
戦後、一気に200万人にのぼる英霊が靖国神社で神格化され、その後、戦犯合祀をしぶる靖国神社を国が説き伏せる形で密かに実現させたというのが、簡単な歴史的経過なのである。
さて、今、外交課題となっている靖国参拝問題であるが、著者は対案での解決は不可能だと論じている。
歴史的に、靖国神社は神社として、いわゆる亜流で、複雑な経緯で誕生したこと、さらには宗教法人であることから国の介入が難しいことなどを理由を挙げている。
しかし、著者はもうすぐ靖国問題が外交上の問題とならなくなるのではないかと予想している。
つまり、靖国神社が外交問題となっているのは、そもそも日本が平和であるからで、集団的自衛権や領土問題から、いずれ海外との紛争で日本人が亡くなったとき、靖国への招魂が問題となるとともに、その海外との紛争そのものが大きな外交問題になって、戦犯合祀の靖国神社に参拝することなどは、何の問題にもならなくというのが、著者の見立てである。
確かに、より大きな問題が起きれば、今まで問題視していたことは、意味を成さなくなるというのは、多くのパターンである。
そういう視点で捉えた論説に初めて遭遇したのであるが、そういう意味で、画期的な靖国神社の本であった。
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