【書評】大韓民国の物語 韓国の「国史」教科書を書き換えよ 李榮薫/著 永島広紀/訳
現在、韓国と日本は犬猿の仲と呼べるほど対立している状態である。対立の主たる原因は、歴史認識の差である。
歴史好きを自認する私にとって、この問題に対して大いなる興味をそそられるのだが、私の知識においては、韓国の言い分「日本がすべて悪い」的な歴史観には到底賛同できないし、そもそも韓国人が信じている歴史は、ただ日本を貶めて自分を上位に見せようとする都合の良い空想としか思えない。
そんな中、最近出会った本書は、2009年に韓国人で韓国の大学教授である歴史学者(専門は経済史)によって書かれたものの日本語訳である。
著者の専門である経済史から「日本による植民地時代に韓国が土地と食糧を収奪されたという韓国史教科書の著述は歪曲されたものだ」という主張を提起し、「私たちが植民地時代について知っている韓国人の集団的記憶は多くの場合、作られたもので、教育されたものだ」としているのが本書の要旨である。
それらの主張を歴史学者らしく丹念に事実を洗い出して論証し、感情を抑えた筆致で書かれ、その結果、韓国の定説は根拠がないことが明らかにされる。よって、本著を読めば、韓国人の(日本人から見ると歪んだ)歴史認識が、どのように誤って醸成されたかが日本人にも実によくわかるものとなっている。
ところで、著者が本著を書いた目的であるが、副題のとおりである。
副題は「韓国の「国史」教科書を書き換えよ」であり、学問を探究する学者として、歴史的事実に拠って、真理を探究すべきであり、現在の韓国の歴史教育は、政治的な意図、すなわち反日を実現するための虚偽の歴史、事実と異なる歴史を教えることが許せず、誤った歴史教育を完全に否定し、正しい歴史を教えるべきだと韓国の人に主張しているのだ。
内容自体は過激ながら、著者はまえがきにおいて、本書で展開する歴史考証に対する趣旨説明がながながと書かれている。(つまり一種の言い訳が書かれている。)その理由は、本著は現在の韓国国民が信じている歴史は事実でないと根拠を以って否定している話であり、それを歴史的事実、特に一次資料を基に歴史考証をすれば、韓国人が現在信じている都合の良い歴史を否定し、それはすなわち、日本による植民地統治はそれほどひどくなかったと論述することになり、そんな歴史認識は、韓国人として許されざる暴挙で、韓国社会では抹殺されかねない事態を招くと友人知人から忠告を受け、表現を抑えたことなどまでも書かれている。
実際、ネットで検索すれば、著者は韓国において、激しく非難され、それどころか罵倒されている動画まであるのだが、それでも学者としてその信念を曲げていないようで、その点は韓国人社会の激烈さを考えると、尊敬に値する素晴らしい信念と感服せざるを得ない。
なぜ彼が韓国国内で猛烈な非難を受け、親日と侮蔑されているかと言えば、次の3点の歴史認識が問題となっているようだ。
1つは、日本が未開の朝鮮を植民地にし、同化政策の一環で投資して結果、農業生産力はもちろんのこと、それまで存在しなかった工業生産力までもが飛躍的に向上したということ。
2つめは、古い身分制度のまま近代化が遅れていた朝鮮社会を日本が近代的な社会制度を導入したことが、その後の近代化に繋がったこと
最後の1つは、慰安婦は強制されたものでなく、ただの売春婦であるとしていること。歴史的に朝鮮には、キーセンと呼ばれる売春文化が存在し、もともとその素養があったのだと述べているのだ。
ここまでくると、韓国では極めて少数派で異端と思える主張をここまで毅然とされているのは、日本にとってありがたいのであるが、その態度は、日本人らしさではなく、やはり、強弁な韓国の人らしい。
むろん、その趣旨は、韓国を貶めて、日本を助けようとかではなくて、歴史認識は事実考証を以って、確立すべきもので、政治的、民族的な利益に誘導される、つまりねつ造した歴史では、誇り高き民族にとって結局のところ何の利益にもならないと思っての、義挙的な行動なのである。
それが、私のような日本人には読めば簡単にわかるのだが、悲しいかな、肝心の韓国人にはまったくもって理解されていないのが、彼にとっては実に悔しいことであろう。
そして、以上の3つの歴史認識以外にも、大韓民国建国や朝鮮戦争の事実に基づく歴史解釈、それらは日本に関わりが少なく、私の歴史知識として脆弱であった部分であるが、その部分もこの本が完璧に補足してくれるのであった。
正直なところ、私の歴史認識は間違っていなかったと韓国の歴史学者にお墨付きをもらった感がして、とても嬉しいのである。
※この嬉しさは、たぶん、日本の左翼思想(自虐史観)、例えば朝日新聞の慰安婦報道が韓国人を勇気づけていたのと同類なのだろう。(笑)
韓国の人も、この学者さんのように歴史的事実を客観的に考証、すなわち都合の良い演繹的な解釈のみをもって、信じたい歴史認識とするような歴史解釈から脱却していく方向に進むことを、日本人としては望みたい。
ただ、一方では、日本においては、韓国とは逆に多数の人が歴史への興味が薄いというのが事実であり、日本の場合は歴史に無関心という別の問題が生じており、日韓双方の相互理解への道はまだまだ遠いのでもあるのだが・・・。
最後に、本書は歴史学者の著作なので全体的にな小難しい話であるが、是非とも韓国理解のために読んで欲しい二冊のうちの一冊である。(もう一つは、【書評】韓国は一個の哲学である 小倉紀蔵/著である。)
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