【書評】ひゃくはち 早見和真/著
甲子園常連の名門校である京浜高校の補欠部員・雅人とノブが高校最後の夏、ベンチ入りを目指し奮闘しながら、普通の高校生活をもエンジョイする姿を描く青春物語。
タイトルは硬式球の縫い目の数と人間の煩悩の数をあらわしている。
まず、タイトルが秀逸だ。私はこういう端的ながら意味深なものが大好きなのである。
野球に青春をかけながらも、女子や性的な欲望も叶えようとする欲張りな青春群像が実に現代っぽい。
メール世代は、電話世代のわれわれとは異なる複雑なネットワークとコミュニケーションがある情報過多な時代に育っただけに、それが実現するとともに、大変な負担にもなっている。
さりとて、甲子園への道は、昔も今もそれほど変わらず、それが現代の青春群像を見事にあぶりだしている。
(野球部出身ではないので、想像なのであるが、そう思える話の内容だった。)
学生から社会人になったとき、学生時代との差(ギャップ)に対し、過去(学生時代の甘さ)を否定するような心情になるのは、心理学的に正常な反応である。
「なんで誰も勉強しろといわなかったのか?」なんて社会人なりたてのころには他者批判的に思っていたのが、しばらく社会人を続けていると「もっと勉強しておけばよかった。」と自省的な心情にだんだんと思ってくる。特に親になったりすると(笑)
つまりは、学生時代の青臭く正義感丸出しの生き方を冷静に振り返られるには、多くの平凡な人にとっては、学生を抜け出し、社会に出て数年間の時間が必要だったということなのだろう。
その時間経過による癒しと成長が、それを経た私のような社会人にはリアルに感じられ、若かったあの頃を本当に身近に振り返られるという意味で、この小説はとてつもなく親近感があり、それ故にとても価値のあるものである感じられた。
だけど、青春真っ只中に生きている若者には本著の表すこのほろ苦い思いは理解できないんだろうな。
人生って難しいね。だからこその青春なのだろう。
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