【書評】一路(上・下) 浅田次郎/著
いやあ、面白い小説でした。
浅田次郎さんの著作は、(映画やドラマは観たことはありますが)初めて読んだ気がします。
時代は、江戸は末期、幕末も幕末。
父の急死により家督を相続、美濃田名部に所領を持つ交代寄合蒔坂家の御供頭として、江戸への参勤行列を差配することになった小野寺一路。
家伝の「行軍録」を唯一の手がかりに、御家乗っ取りを企む陰謀が密かに進展していく中、中山道を一路、江戸へ――。
しきたりには、最初、意味があって、しきたりとなった訳なのであるが、長い年月を経ていく中で、社会状況の変化や人間にありがちな合理的な思考、端的に言えば怠惰によって、部分的に省略されて、形骸化していった様を著者は参勤交代の大名行列を舞台にすることで、ものの見事にあぶりだしてくれている。
それを何の知識も経験も無くお役目を継ぐ事になった若い主人公一路は、古式(最初の参勤交代の記録)に立ち返って、参勤交代を行うことで、結果的に、同僚たる武士はもちろん、殿様までも、参勤交代とは行軍である意味を体感し、御家つまり組織全体として、面倒くさいと思っていた参勤交代のその存在意義を見出していく。
主人公一路の健気なまでの一所懸命さに、殿様をはじめ、関わる多くの人が心打たれ、それぞれの持ち場、役割の中で、一所懸命に彼を、すなわり参勤交代を真摯にまっとうしようとして助けていく。それが、ある種滑稽な感じで心和まさせてくれるとともに、御家乗っ取りの陰謀の進展と相まって、読むこちらに気持ちよく勇気と感動を与えてくれるのである。
事業を行う者、上に立つ者、年齢を重ねた者として、合理化といった怠惰さに流されること無く、物事本来の意味を損ねないように的確に社会状況の進歩に対応していかなければならない。
そんなことを思いながら、この上下巻約700頁を一気に読み進められました。
と、また堅い書評となってしまいましたが、うつけを演じてきた殿様のお惚けぶりや、一路を助ける一本気な無骨者の猪突猛進振りなど、笑いどころは満載の珍道中であり、そこは老練な人気作家たる浅田次郎の筆致の巧みさと相まって、意味のある珍道中記なのである。
つまり、面白くてためになる物語なのである。
では最後に短くまとめると「物事本来の意味を感じながら真摯に生きていこう!」
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