【書評】散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道 梯久美子/著
四国の高校を卒業して、単身大学生活を始めたのは、大学の寮でした。
そこは二人部屋で、同室となったのは、物理専攻で長野から来た栗林君でした。
彼はとても温厚で面倒見がよくて、純粋なところがとても尊敬できる人間で、世間知らずで高慢な私にもとても優しく接してくれたのでした。
外見は、いわゆる縄文系で、色黒くがっちりした体系で、背はもちろん低かったのであるが、本当に信頼のおける人物でした。
しばらくして、私は何かの本を読んだのですが(もう忘れましたが)、恐らく歴史好きで、特に無類の戦史好きなので、きっとその類だと思うのですが、太平洋戦争でもっともアメリカ軍を苦しめた指揮官である栗林中将を知ったのだと思います。
「栗林中将こそ日本軍きっての名将だと思うが、栗林君の親戚じゃないよね」
そのときは、まさか血縁であろうとも思わずに尋ねたわけなのですが、彼の答えは、
「親戚だよ。少し遠いけど。」
実はそんな答えを期待していたわけでなく、だから、そのとき、私は実際のところ、絶句した気がする。
多分そのとき、調子の好い私は、「すごい!すごいよ!」なんて言いながら、手でも握って感動を表現したのではないかと思います。
彼は、「よく知ってるね。」と、素朴な驚きを私に表したような覚えがある。
実は、私が栗林中将を「すごい」と言ったのは、単に太平洋戦争の戦果に対してであり、つまりそれは戦争中日本軍が占領していた太平洋の島々で、あまたの玉砕戦(まさかと思うので解説しますが、退却や投降しないで、ほぼ全員で玉のように砕けて、全滅する戦い)の中で、唯一、日本軍の死傷者よりアメリカ軍の死傷者が多かった戦いであった。
その1点だけで、「すごい」と言っただけの若造でありました。
あれから長い月日を経て、この本にたどり着いたわけですが、改めて栗林中将(日本軍の階級である中将という言い方自体が、彼を表すにふさわしくない敬称であるが)さんが、日本人としての誇りを持つに十分な人物であること認識しました。
著者は、60年を経てでありますが、そのことを女性らしいきめ細かい事実(特に家庭に関することや手紙から読み取れる心情など)を、実に丹念にあぶりだして下さいました。
硫黄島が日本が初めて失うかもしれない固有の領土であるとともに、本土空襲に最適な島であったこと(つまりここをとられると、日本本土の空襲が激化し非戦闘員に惨禍がふりかかる。)から、アメリカが5日で制圧するため圧倒的な戦力で攻めたにも関わらず、36日間もかかり、アメリカの被害も大きかった訳です。
今、クリント・イーストウッド監督の硫黄島2部作が公開されようとしていますが、今でもアメリカにとって忘れることができない、厳しい戦いでもあったわけです。(先のイラク戦争時にも大統領が自軍を鼓舞するために硫黄島での勇気というような比喩を使っていたそうです。)
(これを書いたのは、たぶん7年くらい前です。)
あたり前のことながら、本当に戦争は、酷くて、惨くて、虚しい、不条理極まりないものだと、改めて思いました。
そして、今、日本が平和であることをきちんと考えていかなければいけない。
二人部屋だったのは大学1年生の間だけであったのだが、栗林君は、今頃どうしているのだろうか?
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