【書評】いつか、この世界で起こっていたこと 黒川創/著
東日本大震災から丸3年が経とうとしている。月日は早いものである。
地震、津波、放射線という未曾有の大災害に多くの心ある作家がその創作意欲を刺激されたことは想像に難くない。
本短編集は、そうしたものの一つである。
福島第一原発事故を軸に、東北太平洋岸の大津波、アリゾナの核実験施設の死の灰、チェルノブイリ原発事故、関東大震災、それらが交錯した過去と現在の物語が題名からは想像できないそれぞれの人生に紡がれている。
中でも「神風」は歴史好きの私には目からうろこのお話しだった。
3月11日に大地震があり、3月12日には福島第一原子力発電所の建屋が吹っ飛びました。
その間、3月11日から15日までは、西から東、つまり太平洋に向かって風が吹いていました。
その後、風向きが変わり、茨城・千葉・東京方向、その後、福島の原発から北西方向の風となり、その周辺で強い放射線汚染が生じました。
これは不幸ながらも実のところ幸いだったのではないか。
つまり、もっと早い時期に風向きが変わっていたら、もっと濃い放射能汚染、悲惨な事態になっていたのではないか。
つまりこれは、まさに神風だという話でした。
さらに、その時の総理大臣は管首相だったのですが、この理系の癇癪持ちな人が総理にいたおかげで、東京電力が福島原発は手に負えなくなったから撤退したいとの話を聞いたとき、総理自らが東京電力本社に怒鳴り込んで、撤退させず、命がけで事態の収拾を図れと命令したというのも、一種の「神風」だったのではないかというのだ。
確かに、原子力の知識がなく物分かりの良い総理大臣だったら、東京電力の撤退を受け入れて、福島原発は見るも無残に大爆発やメルトダウンを起こしていたかもしれないということなのだ。
そんな話に安堵する自分がいた。
もう一つは、「チェーホフの学校」での次の文章が心に響いた。
「30代ではやれないけれど、40代になるとやってしまうことがある。なんだと思いますか?それはむかし話です。」
そのとおりだ。過去の栄光というむかし話ばかりしないで、未来の話をしたいですね。
私ですか?
過去の栄光の話も好きですが、新しいマラソン大会に出たいとか、海外旅行に行きたいとか、結構、未来の話もしてますよ(笑)
追記
原子力空母や潜水艦って、とてつもなく危険な存在なのではないか?と作者は暗示していました。
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