【書評】イタリア人と日本人、どっちがバカ? ファブリツィオ・グラッセッリ/著
タイトルはとても賢そうでない。
お笑いの話かジョーク本かと思って借りたが、日本滞在が長く、日本語の堪能なイタリア人の実に論理的な論述に魅了された。かなりまじめな本だった。
架空のイタリア人家族の日常を描きながら、その背景について、丹念に解説していく手法は、リアルにあぶりだされ、問題の本質が浮き彫りになるのだ。
(かなり参考になる手法だと思った。)
日本では、イタリア人は、お洒落でノー天気なラテン系という認識で、生真面目でダサい日本人とは、内面的にもだいぶ違う民族だと思っているが、国の有り様では両国はとても似ていると著者はいう。
著者の指摘した類似点は以下のとおり
・第二次世界大戦の敗戦国
・戦後の驚異的な経済復興
・工業技術立国
・首相の任期が短い
・連立政権による政局の迷走しがち
・国の借金が多い
確かにそのとおりだと思った。
だから著者が自国イタリアに対する問題点のあぶり出した点は、同じような国家である日本の問題解決の糸口になるというのももっともな論拠である。
以下、日本に対する印象的なメッセージを引用する。
日本人がよく口にする言葉に「見ざる、聞かざる、言わざる」というのがありますね。今の日本人には、難しい社会問題になると「見ざる、聞かざる、言わざる」を決め込んでしまう人が多いように、私には見えます。(中略)
ニュースや社会問題についてただ「わかりやすく」解説してくれる人が、日本ではもてはやされます。でも、えてして「わかりやすい」説明というものは、物事を単純化して、ある一面だけから見たものになっている場合も多いのです。日々起きるニュースを、たとえ面倒でも、さまざまな角度から見直してみることや、難しい社会問題や国際問題を、一面的な解釈をして済ますのではなく、色々な人の立場で考えてみることも、現代人には必要なのです。(中略)
また政治家でも、今の日本では、ただ「はっきりものを言う」人物ばかりがもてはやされる傾向にあります。(中略)大事なのは、言い方がはっきりしているかどうかではなく、言っている事の「内容」ではないですか?それに、これは過去に「独裁者」となった、危険な「大衆扇動家」の特徴でもあることを忘れてはいけません。(中略)
確かに、いろいろな方向にアンテナを張り巡らして、自分を取り巻く社会に何が起きているのかを理解し、自分の頭で考え、それを口に出し、行動するのは、大変なことです。(中略)
単純に「欲望」と「快楽」にだけ従って生きるのではなく、様々なことを学び、何が正しいのかを考え悩み、試行錯誤しながら、それでも考えるのをやめないこと。そして自分の考えに従って発言し、行動すること、それは私たち「人間」にだけ与えられた能力です。そうでなければ私たちは、かつてこの地上を支配していた恐竜たちと、何も変わらない存在になってしまうでしょう。今の日本人を見ていると、だんだんと「恐竜化」への道を歩んでいるように思えてなりません。
イタリア人が内容のあるきちんとした日本語で日本の未来のために文章を書いている。とても嬉しいことですね。応えるためにはぜひ多くの日本人に読んでもらいたいですね。
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