【書評】ビッグデータ社会の希望と憂鬱 森健/著
ビッグデータの有効活用が巷では叫ばれている。推進派の話は聞くまでもないだろう。便利で有用。一応、その業界にいたわけだし、技術の進歩により、多様で大量なデータの収集や解析が極めて容易に可能となったことは認識しているし、それを上手に活用すれば社会をより便利に安全にしてくれるだろう。
では、ネガティブな意見や懸念はないのか?偶然、本著のタイトルを見たときに、それが書かれているのが明白なので読んだ次第である。
本著の構成は以下のとおり
プロローグ ネットワーク社会は「私たち」を幸せにしたか?
第1章 どんな情報でも配信可能という諸刃の剣
第2章 ネットを支配していく検索エンジン
第3章 ネットから生まれた参加型ジャーナリズムの行方
第4章 ウェブの進化が民主主義を衰退させる
第5章 ICタグが拓く未来
第6章 いつでもどこでも個人情報が奪われる社会
第7章 社員の自由を奪う管理システム
第8章 安全と監視のトレードオフ
第9章 バイオメトリクスで全国民を特定せよ
第10章 ネットワークで分極化する社会で
ほとんどのタイトルには、技術の名称が書かれていない。普段から自分を便利な生活に誘ってくれている技術が何なのかに関心を持ち、さらにその功罪を考えていれば、自ずと何について書かれているかはわかるはずである。そんなことを意図させていると思われる章立てに著者のこだわりが見て取れる。
それぞれの技術については以下のとおり
1はメール
2は検索エンジン
3はブログ
4はSNS(ソーシャルネットワーク)
5はICタグ()
6はICカードやICタグなどの融合
7は社員管理システム
8は監視カメラ
9は生体認証
10はネット社会全体
本著がビッグデータ社会の華々しい到来を多くの人が叫びだした時期に合わせて、すぐに上梓されたのは、本著の内容のほとんどが2005年に書かれたものだからであろう。(もちろん最新の状況は加筆修正してある。)つまり著者は、8年前当時にすでの萌芽しつつあった新しい技術の未来を予見していたのだ。その先見性とそれゆえにはっきりと見えてきた問題を改めて警鐘として投げかけているのである。しかしながら、ただの批判では終わっていない。本著の要旨が凝縮された後半の文章を引用する。
多くの国と同様、日本でもネットワーク化は進んでいる。(中略)技術は大勢が望む方向にしか進まない。(中略)現在の情報化、ネットワーク化は、人々の希望によって作られてきたというべきだろう。(中略)映画『2001年宇宙の旅』のHAL、『ジュラシック・パーク』の恐竜のように、役に立てようとして作ったものが、作り手の想定を超えたもの、怪物を作り出してしまったのではないか、そう思わないこともない。だが、技術は技術、どう使うかによって善にも悪にもなる。(中略)技術をどう運用するかは人間の知恵にかかっている。
さて、難しい話はともかく、技術を使いこなせるものが悪意を持ったり、システムが暴走したとき、思わぬ被害が降りかかり、広範囲に及びことだけは忘れてはならない。便利さに安易に依存しすぎないことが、自分で身を守る唯一の方法だろう。
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