【書評】黄金の少年、エメラルドの少女 イーユン・リー/著 篠森ゆりこ/訳
中国人作家による短編集である。
著者はアメリカ在住の中国人の女性で、年は私より7つ若い。中国で育ち、米国に移住したようだが、原作は英語である。しかしながら、短編の舞台は全て中国である。
まず題名であるが、とてもエキゾチックで神秘的な神話のようなタイトルの短編からで、本著では最後に掲載されているものである。話の内容は、中年男女のちょっと妥協的な結婚の話である。中国語の「金童玉女」を英語で、「Gold Boy,Emerald Girl」とし、日本語に訳す際に「黄金の少年、エメラルドの少女」となったのである。
この短編集は、中国人の結婚や家族について、中国の古くからの因習と現代中国における自由さ(日本も同様であるが)の軋轢を描くことによって、主体的な存在や行動の結果、現代の家族を作り上げていかなければならない現状をいろいろな角度から炙り出しているのである。
著者自身は、中国を脱出し、アメリカの西海岸で夫と二人の息子と暮らしているらしいが、その主体的、能動的な生き様とは違う、中国国内で因習から開放されつつも因習に囚われた人々の内面の充実などもきちんと描かれているのが、好印象だ。
本著の中で最も好きな短編は「流れゆく時」だ。
人生の終盤になって、孫娘との生活の中で、ずっと抱えてきた解決できない苦しさを蘇らされつつも、人生の不条理さとともに生き抜いてきたことが切なく悲しいのだ。
最後がこう結ばれている。
「まるで50年前の写真屋の狭苦しいスタジオで、時間が止まったかのように。愛淋はそんなことを考え、写真から顔をそむけた。涙に潤んだ目を、義姉妹に見られないうちに」
それにしても、中国は日本の高度経済成長と同じような劇的な経済発展とインタネットに代表される情報化社会が合体して押し寄せるという大激動を経て、現代中国がそれら綯い交ぜの世代による矛盾を抱えているということだけは良くわかった。
大変なんですね中国社会は。
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