【書評】不法愛妻家 デビット・ゾペティ/著
表紙には本著の主人公である家族全員とキャラクターをイメージさせるに十分な可愛らしいイラストと「不法愛妻家 デビット・ゾペティ 新潮社」の文字しか記載されていない。
翻訳者の名前が見当たらない。つまりはゾペティ氏自身が日本語で書いた本ということだ。
小説の内容は、日本が大好きなイタリア、サルデーニャ島出身のイタリア人、ファブリ(男性)が、日本に来て、日本の一流会社に就職して、日本人女性と恋に落ちて、同棲して、結婚して、子供が4人生まれて、歌手としてデビューしながら、日本で愛する家族と生活している約20年間の話である。それがとてつもなく共感できて、一気に読んでしまった。素晴らしい小説である。
作者はスイス人ながら日本のテレビ局で働いて、その後、小説家になったのであるが、外国人として日本で生活するというエピソードの大部分は自身の経験からと思われ、すなわち私小説であると想像されます。
主人公が日本人同士であれば、こうした普通の家族の日常生活の話では、とても小説にならないところであるが、文化の異なる異邦人が、日本社会に溶け込もうとしている点、それにより家族で幸せになろうとするためには、目的にかなうさまざまな努力がそこにはあるということを、自然に表現でき、読む我われも受け入れられる。
日本の文化に困惑する事象は以下のとおり
・結婚式
・親との関係
・名前の画数
・伝統行事
・中学受験
それにしても主人公の奥さん和泉さんが面白い。大阪出身の入管職員でともかく勝気な女性だ。金銭感覚が大阪出身らしく現実的かつドケチなのだが、生き様や行動力は肝っ玉かあさん的でもあり、未来志向な思考のところはとても共感できる素敵な女性であり、それがこの家族生活をとても面白くしているだ。
家族で幸せになるためには、夫婦二人が同じベクトルに向きながらも、そのための役割は分担し、バランスを保ちながら共同で進んでいくいうことなのだ。
我が家もこの小説の夫婦との関係性や役割分担は違うものの、違う形で見事にバランスが取れているのではないかとほくそ笑んでしまった。(奥さんに協調している主人公のファブリとは違って、私は自分勝手にきままに生きているが・・・)
本著の中で特に印象深かったのが、以下の部分。
・「騙されるな。子供が生まれるまでは大抵の女性はそうだ。その後が問題だ。女性であることを放棄して、母親になる。その時を境に夫婦関係が変わってしまう。」(ファブリの伯父アントニオの忠告)
・円満な夫婦関係の秘訣は妻を威張らせてあげることだ。段々とそんな気がした。結婚はポイント稼ぎと思うようになった。どうすればポイントが上がるかを掴むことが肝心。ポイントが上がらないことにエネルギーを費やしても意味はない。ちなみに、ポイントが溜まっても、普通に暮らせること意外に、特典はとりわけない。そういう仕組みなのだ。(主人公ファブリの心の言葉)
・生涯を通じてカント(注:イタリア・サルディーニャ島の伝統音楽)のプロを貫いた伯父はいろいろと助言してくれた。
「焦っちゃ駄目だよ。人に迎合して歌うんじゃない。君の歌は君の生き様であり、芸術と愛の結晶でなくちゃいけないんだぞ」
和泉(注:主人公の妻)は伯父の意見に真っ向から異議を唱えた。
「私は違うと思う。ぐずぐずしてたら、人に忘れ去られてしまうよ。平野社長も言ったじゃない。生産性が大事だって。それと、あまり芸術性を追求しない方がいい。まあ、バランスの問題だね。一般受けを狙った曲を四つ作って初めて、芸術的な曲に挑んでみればいいじゃない。とにかく、曲はあまり深く悩まないでさっさと作った方がいい。」
和泉は芸術的という言葉を不要な遠い外国語のように発音した。(プロの歌手になって曲作りに悩む主人公に対する言葉)
なんだか悩みや考え方は世界共通なのですね。(笑)
追記:
外国人ながら見事な日本語の小説です。
唯一の誤植だと思った場所がありました。
「彼の活動を「仕事」と見なさない嫌いが和泉にはあった。」
ところが、辞書で調べると間違いでは有りませんでした。傾向があるという意味の「きらい」は「嫌い」で正解でした。
外国人に負けてしまう日本語。情けない限りです。(笑)
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