【書評】「長生き」が地球を滅ぼす 本川達雄/著
著者はナマコなどを研究している生物学者であるが、その研究から生物的時間という新たな時間の概念(生物の種類や状態によって時間は違う)を導き出して、現代社会の時間とエネルギーの使い方に警鐘をならしているのである。
しかしながら、あまりに衝撃的な本著に対し、社会、特にマスコミは無関心を装った。
歴史的にも正当な衝撃に対して、無関心をもって当たるというのは、ある意味まっとうな対応だろう。
著者は言う、「現代人は生命内部で必要とするエネルギーのほかに化石燃料などから40倍ものエネルギーを消費して活動している。そして、他の同程度の大きさの哺乳類に比べて3倍もの長寿である。生殖活動が終わってもえんえんと生き続けることは潔さに欠ける」と。
さらに膨大なエネルギーを使って無駄に生きながらえている現代人はエネルギー枯渇の元凶として、将来の子孫に恨まれるだろうとまで予測している。
長寿こそが多くの人間の願望であり、疑いを持ってこなかったが、確かに生物の一種族として考えれば、適当なところで後身、つまり次の世代に譲るのが正しい。老害という真の意味は、再生産に貢献していない者が次世代にまわすべき貴重なエネルギーを無駄に消費していることを指しているのだ。
確かにそのとおりなのだが、普段相当に辛口な私からしても厳しい論理展開だ。なぜなら、私自身がもはや再生産性以外に無駄なエネルギー消費し、それで自身の人生の満足度を上げているからだ。
あとがきに著者の友人が断言した話が載っている。
「これは名著だが、マスコミは一切とりあげないね。非国民の書だから。昔は軍部に、今は福祉に少しでも水を差すようなことを言えば、非国民と呼ばれるんだよ。この本は時間の見方としてじつに新しい。目からうろこの落ちることがたくさん書いてある。『代謝時間』という概念、エネルギー消費量で時間を計るなんて、まったく新しい時間の定義だ。そして納得がいく。しかし、その結果、この本には、老人は早く死んだ方がいいようなことが書いてある。だから非国民の書なんだ。」
本著の論理に矛盾はないのだが、それを受け入れられない。
ただただ私も黙してしまうしかないのか・・・。
壮絶なる名著である。
重要な段落タイトルは以下のとおり
・生命と伊勢神宮
・時間感は魂である
・食糧生産装置としての変温動物
・大きなものほどサボっている
・小さいメリット
・恒環境動物 変温恒温
・昔の寿命は30年
・高齢化社会の生き方を教えてくれるものはない
・植物 長寿の秘訣
・昆虫 複数の時間を生きる
・卑しい日本人と科学の罪
・時間感と責任感
・おまけの人生
・老人は働け!
・広い意味での生殖活動
・この世を天国にする方法(ナマコ)
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