【書評】人種とスポーツ 川島浩平/著
サブタイトルは「黒人は本当に「速く」「強い」のか」
オリンピックやメジャーリーグなどをテレビで観戦していると外国人選手、特に黒人選手の凄さに驚くシーンが多い気がする。
解説者も、外国人選手(いわゆる白人や黒人)の強さについて「身体能力が(われわれと)違いますから」などと解説していたりする。
直接的に黒人と接したことがない私にとって、これらの二次的な体験から、やや盲目的に「外国人は日本人とは身体能力がそもそも違う」と思ってきた。
著者はそれらの評価、特に黒人選手が優れているという評価が歴史的にどう生まれてきたのか?それを解明したのが本著である。
黒人の身体能力が高いという見方が、偏向した著名人の発言や報道などにより、黒人の身体能力は生まれつき高いというステレオタイプが徐々に形成され、浸透していった歴史的な経緯を克明に解析し証明している。
それでも、現在生きているわれわれにとっては、陸上競技の競走における黒人の絶対的な強さを目の当たりにしており、現実つまりリアリティのあるものとして、黒人の人種的な身体能力の優位性を感じざるを得ない。
著者もその点は認めつつも、文系の学者であり、科学的な考察は行っていない。生物学的にはどうなのか?恐らくそこに踏み込むのは文科系ということでなく、倫理上タブーなのかもしれない。
追記
日本人が人種という概念について、肌の色による白人、黒人、黄色人というものを多くの人が持っていると思う。(それは非科学的なものなのであるが、島国に住むほぼ単一民族である日本人としては肌の色による区分は文化的にも馴染んでおり、なかなか変える事ができない。)そして、オリンピックをはじめとするスポーツのグローバル化の中でわれわれが劣勢であるとの思いが、人種的な優劣があると感じてしまう大きな要因である。日本的な人種の区分によるところの、黒人、白人、黄色人の順で優劣があると思っていて、そのハンディを乗り越えて日本人が勝利するのがスポーツ観戦の楽しみの一つにすらなっている。
確かに黒人の全てが運動神経抜群でないことは間違いないのであるが、多くの黒人が奴隷などの苛酷な環境下の中での淘汰により、生命力が強く、運動能力の優れた子孫のみが生き残ってきたというのは、仮説としても十分有力な説とも思われ、個体差の範疇を超えて黒人の優位性が存在しているとも言えるのではないか。
一方、農耕民族である黄色人が狩猟民族である黒人や白人に対して運動能力が低いということ、また平均的な体型(胴長短足)からも身体能力が低いことは容易に想像され、個体差があったとしても、基礎的な運動能力が重要な陸上競技の競走において、その差を埋めることはスポーツ参加の敷居が低くなった現代においては、難しくなり、結果的に近年は黒人選手が上位を占める結果となっているのではないか。
(フィギュアスケートの近年の日本の活躍は、一つは選手層が薄いという競技の中で、日本の選手層が際立って厚く、優秀なコーチ陣も充実してきたということ、さらには平均的に小さいという体型の民族的な優位性と技の高度化に伴う若年層からの育成が必要となってきていることなどが相まっての結果だと思う。)
ということで黒人の身体能力の高さは、一部の黒人の平均的な身体能力の高さからの個体の優秀さがトレーニングによって出現した結果ということと思われる。(本著にはそこまで書かれていないが)
そんなことよりも、本著の論証は、偏向した考え方がステレオタイプとして社会に浸透していく過程を黒人の運動能力の優秀さというものに焦点を置いて解明したという点が非常に重要である。
ステレオタイプの社会への浸透は操作可能ということであり、例えば北朝鮮が危険な国家であるとか、政治家は汚職にまみれているとか、そういうステレオタイプが蔓延し、その結果、我われ自身が自らの判断を狂わされてしまっているという現実がそこかしこに起こっているのではないか?
そういう疑念を想起させるに十分な読み応えのある内容でした。私にとってはですが(笑)
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