【書評】蜩ノ記(ひぐらしのき) 葉室麟/著
本日、民主党代表でもある野田総理が国会の党首討論の場で、毅然として衆議院解散を宣言した。
多くの人は彼を評価しないかもしれないが、背筋の伸びたブレの無い立ち居振る舞いを私自身は小人の身なれど、凛としたものとして格好良く感じた。なぜなら、かつての自民党政権時の麻生総理の時と同じような追い込まれた状態にありながら、ずるずると先延ばしせず、いやむしろ、野田総理の方は消費税増税の責めを負うのが分かっていながら、民意を問うことにしたからだ。潔いと認めざるを得ない。
歴史を軽んじる我が国の人は、これまで民意がいかに大きな間違いを助長してきたのかという歴史的事実をすっかり忘れている。
その無自覚さには呆れるばかりであるが、非常時における日本人の叡智という点においては、実のところ私は密かに期待しているところでもある。
さて、本著は無実の罪を着せられて、切腹を命じられた武士が、自らの運命に抗うことなく、己を律し、他者に優しく、限られた時間を活かしきる見事なまでの生き方に、その家族や周囲の人々は彼に感化され、その意志を継ごうとするものたちとして、葛藤しつつも、成長し、最後は見事なまでに潔く、ほれぼれするような立ち居振る舞いまで会得していく様が、ミステリー調の趣を持ちつつ、展開されていく。
読了直後は涙を禁じえないものの、その清清しい生き様に、己の俗物的な不甲斐なさを忘れて、感動と勇気をいただくことができた。
同じ宮仕えとしての矜持において、主人公秋谷の足元にも及ばないが、その自覚を持ち、少しでも近づいていこうとする気持ちは忘れないようにしていきたい。
などと堅い話をしてしまいましたが、とても良いお話です。是非読んでいただきたいですね。
追記:主人公秋谷の子息、郁太郎の友で百姓の倅、源吉(たぶん10歳くらい)のけなげ振る舞いが、この作品の肝でも有ります。端役である農民の子供をここまで描ききる作者の筆致に感服です。
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