【書評】考えない人 宮沢章夫/著
「ふわふわと手が動き、ダンスするように言葉が生まれる。」筆者のエッセイのスタンスだ。
これが脱力感あふれる見事な随筆録になっている。
が、読むには十分に考える必要がある。考えない人を見事に考察している点を十分に理解するには、それなりに考えていないと読めない。
うーん、見事な論理矛盾だ。(笑)
以下、面白かったエッセイを書き出しておく。
「崖っぷちの幸福」借金地獄にいながら、株に手を出している人のブログを読んでの感想。だめな人の「だめ」がまざまざある。と、作者のだめ出しが笑える。
「踏み台の登り方と降り方」では、取扱説明書の過剰なまでの表現ぶりと取扱説明書をすぐに捨てる者や趣味が取扱説明書である人のおかしさを、独り言のように書き綴っている。書き綴っていながら、そのことの意味がよくわからない。と、読んでいるこちらもろとも放り出されるのが、妙に心地よい。
「最後ぐらいは騒ぐ」では野球をよく知らない人が、野球場でプロ野球を観戦していると、片方のチームが一人もヒットを打てず、点も入らず、ランナーも出ない状況に、面白くなかったが、周囲は異常に盛り上がっていたので、最後は一緒に騒いだという話だ。完全試合という稀有な場面に出くわしながら、困惑している考えていない人に対する考察と野球好きである作者自身のかの人への羨望感の交錯が秀逸で、笑える。
「カーディガンを着る悪党はいない」には、確かにそのとおりだと思った。私もかつてはカーディガン派だったが、今は着ない。ちょい悪おやじになったからだろうか(笑)。しかしながら、その装いを最初に体現したカーディガン伯爵は相当な悪党だったという指摘をもとに、最後には真逆の結論に持っていかれる。いったいどっちなんだ!
と、誰も思いもしないような事象を捉えてのエッセイが続くのであるが、最後の「2002年10月17日(木)」はタイトルにそぐわない珠玉のエッセイだった。男のロマンとは、こういうものだ。(ただし、現代のロマンとはこうした小さいものになっているのであるが・・・)
追記:表紙の絵は、これまた脱力漫画家でエッセイも面白い「しりあがり寿」さんだ。
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