【書評】山からの絵本 辻まこと/著
誰だか忘れたが山好きの評者がかなり高位で薦めていたのが本著である。
1966年の出版、私と同級である古い本である。
絵本というほど、絵は多くないのであるが、その絵はなんとも言えない味のある絵であり、書棚に飾りたいと思う素晴らしい本である。(絶版なので、中古品を買うしかない。)
本著は戦前戦後、山を愛して山を彷徨った山好きの著者による随筆集である。当時の山登りは、今とは違って、とても不便で、命をかけつつも、どこか牧歌的で時間がゆっくりと流れ、野生動物との遭遇も多い、自然に近く野性味あふれるものである。それらが、著者の特異な挿絵により、一層情緒深くなっている。
ちなみに、印象的なのは絵ばかりでなく、その文章においても、唸ってしまうような珠玉の言霊がある。
以下、引用する。
「年をとって拡がりすぎた生命が、内側に空虚を発見すると、その穴を埋めるために、手はいろいろな物を集めて、それでなんとかしようとするのかも知れない。切手やマッチの箱や絵はがきや・・・。」(祖父の岩の一節)
<ごみ屋敷となる心理とは、こういうことなのかも?年をとったときにわかるのかな?>
「なにか注目すべきことがらがあると、どんなことも、それに結びつけて考えようとするのは村の多くの人たちの癖である。精神のきわめて安直な経済学である。」(三本足の狐の一節)
<精神のきわめて安直な経済学である。>
モノゴトの真理を努力して探究しようとしないで、その表面と周りの反応だけ見て、適当に判断することを見事に表している一言である。これも1つの人間の生きる知恵なのであるが、動けるうちは、労を惜しまず、安直に判断しないようにしたいと思った。
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