【書評】リトル・ピープルの時代 宇野常寛/著
表紙に仮面ライダーが佇んでいる。
社会評論の本なのだが、村上春樹の著作の変遷とウルトラマンと仮面ライダーに見る比較変遷が鋭くも膨大に論じられている。
ちなみにウルトラマンを「ビッグブラザー」、仮面ライダーを「リトルピープル」の代表として、本著では扱っている。
最初は、村上春樹が2009年2月にノーベル文学賞の前哨戦として知られるエルサレム賞を受賞した際のスピーチを取っ掛かりに評論が始まる。
そのスピーチの肝の部分は、次のとおりである。
「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」
壁とは、村上春樹は「システム」と言っているが、社会構造とかグローバル資本主義といった一個人ではいかんともしがたく、国家をも超えた存在のことを指すであろう。
これを踏まえて著者は、社会構造上の壁として2パターンを上げている。それぞれをオーウェルの「1984」からビッグブラザーと村上春樹の「1Q84」からリトルピープルとそれぞれの著作を引用して名付けたものについて、その歴史的変遷を日本のテレビ番組(「ウルトラマン」と「仮面ライダー」)での主人公と敵役との関係性の類似や時代による変化などと比較して論じているのです。
社会構造を2パターンに分け、その変遷について論じている部分は、評価できるし、ウルトラマンと仮面ライダーの物語の構造分析はなるほどと頷ける内容である。ただの民法テレビ番組(視聴率を撮るためのお話)ではないことがよくわかりました。
ただ、残念に思うのは、ウルトラマンと仮面ライダーのそれぞれの物語上での細かな類似などを述べられても、「それで?」と言わざるを得ないこと。アメリカの「聖書男」がそうであったように、二次創作化している内容では、世界に通じる評論とならないでないか・・・。よく出来た思想評論の内容に加え、著者のそのほとばしる熱い思いを込めた迫力ある評論であるだけに、惜しくてならない。
(以前読んだ「ふしぎなふしぎな子どもの物語」でも同じように、ウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムを詳しく解析していましたね。これらは、現代日本の思想的な結晶体なんでしょうかねえ。)
最後に本著は著者が初めて出した著作でありながら、その印税を全額「あしなが育英会 東日本大地震・津波遺児募金」に寄付していることはここで伝えよう。書評とは関係ない話なのですが、素晴らしいことだと思いましたので・・・。
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