【映画】灼熱の魂
これまで、あまたの映画を観てきたが、放心したのは初めてだった。衝撃のラストに付いていけなかった。客席も9割方は放心していたようだ。退場する人少なく、客席からまったく声無くエンドタイトルクレジットを見続けている劇場なんてのも初めて経験でした。
ご承知のとおり、衝撃的なラストシーンがあるのは、映画の常で、それに感動したり、あるいは大どんでん返しに感心したり、逆にくだらなさに失望したり、イラッとしたり、などなどすることはあっても、放心したことはなかった。ミステリー的な展開での種明かしに「なんだ、そういうことか」なのであるが、それで放心するのである。
これ以上言うとネタバレなので止めておくが、衝撃の事実に気が付いて以降は映像を観ていたものの放心していたため、そこからラストまでの記憶が飛んでしまっている。なので最後に明らかとなった手紙の内容が思い出せないのである。ラストが書けないなんて、私的にはありえない映画鑑賞である。
映画の始まりは、母親の不可思議な遺言から、過酷な運命を生き抜いてきた彼女の壮絶な人生の真実を探し出していくのであるが、これを文字にすると名作「マディソン郡の橋」のように思えるかもしれません。しかしながら、この映画の壮絶さは、それと比較するのもおこがましいほどの桁違いの壮絶さなのである。
母親の何十年前の壮絶な出来事と現在の双子が自分たちの母親の過去を探す旅が、並行して映し出されていくうちに、観ている側は完全に引き込まれてしまい、最後に謎が解き明かされて、奈落に突き落とされるのだからたまらない。しかも、ミステリーながらドキュメンタリーのようなリアリティさを保っていることがこの映画の凄いところである。(あとで振り返るとプロットがうますぎる気もするが、放心させてくれたのだから、確かなものであろう。)
最後の「祖母たちに捧ぐ」のクレジットに象徴される女性の強くて優しいところは、寛容さの源であろう。男には絶対に真似できない。
追記:一般的には、この映画のあまりのおぞましさに気持ち悪くなるかもしれない。平和な世界に生きる現代の女性の何人かは、まずもって耐えられないだろう。(だから世間の評価は必ずしも高くないだろうと予想される。)
公式サイトから引用
登場人物が秘密を解いていくミステリー調の映画は数あれど、これほどまでに恐ろしい真実が最後に待ち受ける物語は滅多にない。しかもその真実は、はてしない憎悪と暴力の連鎖を断ちきろうとした主人公ナワルのかけがえのない祈りをはらみ、観る者の心を震わせずにおかないのだ。いくら傷つけられ、魂を焼き尽くされようとも、美しき我が子たちへの"約束"を果たそうとした、ひとりの母親の崇高なる愛の軌跡がここにある----。
<あらすじ>
初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)は、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)にも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。
<作品データ>
原題 INCENDIES
製作年 2010年
製作国 カナダ フランス
配給 アルバトロス・フィルム
上映時間 131分
<スタッフ>
監督 デニ・ヴィルヌーヴ
脚本 デニ・ヴィルヌーヴ
原作 ワジ・ムアワッド
製作 リュック・デリ 、 キム・マクロー
撮影 アンドレ・ターピン
音楽 グレゴワール・エッツェル
編集 モニーク・ダルトーネ
<キャスト>
ナワル・マルワン ルブナ・アザバル
ジャンヌ・マルワン メリッサ・デゾルモー=プーラン
シモン・マルワン マキシム・ゴーデット
ノタリ・ジャン・レベル レミー・ジラール
アブ・タレク アブデル・ガフール・エラージズ
ノタリ・マッダード アレン・アルトマン
シャムセッディーヌ モハメド・マジュド
ファーヒーム ナビル・サワラ
マイーカ バヤ・ベラル
ネタバレこちら↓(見たい人だけドラッグして見てください。これから映画を見る人は読むと映画の面白さが半減します。)
衝撃の事実とは、お母さんの遺言たる父と兄への手紙の2通は結局、同一人物宛てであったということ。つまり、姉弟の兄が姉弟の父でもあったということ。その経緯は、母が出生が許されない兄を産んで、すぐに生き別れとなって、その15年後、母が犯罪者となって、刑務所でひどい拷問を受けた。その拷問執行人は15歳の母が生んだ我が子であり、姉弟の兄であった。拷問とは連日の強姦であり、我が子にレイプされ続けた結果、妊娠し、生まれてきたのが姉弟であったと言うことだ。母はその全てを知っていて姉弟を育てた。その辛い出生の経緯と育児を死後に自らで解明させることで、愛の形として、見事に昇華させた。ただ、同じ我が子である兄はその事実を知ってどうなったのか?それは明らかにされない。
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