【書評】図書準備室 田中慎弥/著
共喰(ともぐい)で第146回芥川賞を受賞し、その受賞会見で一躍、時の人となった田中慎弥さんの著作である。
共喰は残念ながら千葉市の図書館に所蔵されていなかったので、初期の作品である本著を借りて読んでみました。
本著は、「図書準備室」と「冷たい水の羊」の2編。引きこもりの話といじめられっこの話である。恐らくは、作者自身の体験を基に描かれた私小説だろう。
「この論理は完璧だ」
「白い浜には松の影が、死体のように落ちていた。(中略)生きるためには形にこだわらない、植物の見苦しい力だった。」
いじめの陰湿さと捻じ曲がった自己弁護の論理が作者そのものの実体験として、確かな実体として文章に宿っている。繰り返しての描写はリアリティを超えて、恐ろしいまでの執拗さである。(よって、とてもベストセラー作家にはなり得ないだろう。)
個人的には、「冷たい水の羊」が好きである。主人公に対するいじめの陰湿さには、読んでいて閉口し、それに抗うベクトルがおかしな方向に進む、じくじくした展開に何度も本を閉じようと思いつつ読み進めてしまう。そんな暗くて暗くて辛くて痛い話なのである。
なのに、最後にとっても爽やかな気持ちになれる。これは本作を含め芥川賞に5度もノミネートされた作家として紛れもない図抜けて特異な力量の持ち主であることを感じられた、なんだか不思議な感じの作品でした。
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