【書評】エネルギー論争の盲点 石井彰/著
本著の誕生は、福島原発事故が無ければ生まれなかった宿命の生い立ちである。
そして、原子力を議論する前に、必ず読んで欲しい必須の本である。
日本のこれからのエネルギーの現実解がきちんと提示されているからだ。
エネルギーとは何か?それを知らずして原子力の是非を問う愚かさ。
薪炭、牛馬から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーへの流れ。
最強のエネルギー源である石油、その最強エネルギーを持たない国による原子力への傾倒と爆発したリスク、原子力亡き後の本命エネルギーは何か?
全てが解き明かされます。
そのために、本著はエネルギー論の基礎的な話をわかりやすく説明してくれています。
例えば、電気はエネルギーそのものでなく、エネルギー媒体であり、議論すべき直接の対象ではないとは、我が意を得たりだ。
北欧の人口の少なく農業生産力の高い小国とエネルギー資源を持たず、膨大なエネルギーを投入し、世界が欲しがる工業製品を作り続けなければならない日本との再生可能エネルギーの割合の比較の無意味さなど、少し考えてみれば明らかなことなのに、マスコミは伝えないし、われわれも気が付いていない。
再生可能エネルギーを取り出す装置(太陽電池や風力発電装置)の製作には、大量のエネルギーが必要であることや、効率の悪さ、つまりコスト高であることも理路整然と書かれている。
そして著者の究極の回答は、これまた我が意と同じであった。「世界の人口を減少させる」
それまでの数百年間のエネルギー源は埋蔵量が甚大な天然ガスであるだろうとの論調は、正論そのものである。
原子力亡き後の日本の電気は、設備工事や燃料調達が容易で、環境負荷の低い天然ガス・コンバインドサイクル発電で賄う。
それから電気自動車についてはこんなことが書いてあった。東日本大震災直後の電力不足で電車は動かなかった。もし日本が電気自動車だらけであったなら、多数の電欠車が道路を塞ぎ、輸送は完全麻痺していただろう。誰も気が付いていないが、そのとおりだと思わざるを得ない。
最後の締めくくりがわかりやすく印象的だった。
それは野球に例えて、エネルギーの分散化が論じられているので紹介する。
「東日本大震災後の日本のエネルギー状況で求められているのは試合に着実に勝つことであり、ファンを喜ばすためにリスクを冒してホームランを狙うことではない。現状は、四番を打っていた高給取りの石油に疲れが見え、力任せの大振りスイングながら、監督の覚えめでたく次の四番に目されていた原子力が、大ファウルで観客に大怪我をさせ、自らの故障した。そうなると一発は期待できないが出塁率の高い三番だった天然ガスを四番に据え、調子の波が大きいので下位打線だった風力発電、太陽光発電を、一番、二番に繰り上げていくしかない。三番、五番は、疲れと怪我で衰えたとはいえ、未だ侮れない長距離ヒッターの石油と原子力が当面は打つしかないだろう。」
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