【書評】エンデュアランス号漂流記 アーネスト・シャクルトン/著 木村義昌/谷口善也 訳
20世紀初頭に人類史上初の南極大陸横断を企てた英国のシャクルトン隊長みずからによる探検記。壮図なかばにして船を氷に砕かれ遭難するも、氷海に投げ出されて孤立無援となった探検隊を率い、全員が奇跡の生還を果たすまでを描く。
本著は冒険をする人たちには、広く愛されている本で、バイブルと言ってよいほど有名な著作である。また、近年は、組織を上手くまとめて、非常な困難を乗り切ったことから、経営者等にも読まれているようだ。
さてこの漂流記、常夏の南の島で無く、極寒の南極近海で起きた話である。探検隊は世界初の南極大陸横断を目指して進むも、南極大陸目前の海で氷に囲まれて身動きができなくなり、やがて氷に船が押し潰されて、孤立無援の1年3か月に及ぶ氷上生活を余儀なくされた。さらには、生活の場であった氷自体が小さくなり、小さなボートで決死の脱出行。氷と強風の海をなんとか無人島に辿り着くものの、食糧物資不足の中、4ヶ月におよぶ耐乏生活のうえ、28名全員の帰還を果たした記録である。
この1年7ヶ月の長きにわたる想像を絶する困難な状況下での遭難をシャクルトン隊長が帰還後、したためた報告が本著の基である。
シャクルトンは序文で、「われわれはこの目的(初の南極大陸横断)に失敗した。本書はそのときの探検物語である。目的の達成には失敗したけれど、それらを書きとどめておかなければならないと、わたしは考えたのである。」としている。困難さを情緒豊かに描くわけでもなく、日報風に客観的に綴ってある。
そこからわれわれが受け取れるのは、この人のリーダーシップと隊員の団結心、深い友情と信義、大自然との死闘、そして彼らの不撓不屈の精神だ。それらがシャクルトン本人による冷静客観でありながらも、行間から彼らの誇りと尊厳を感じずにはいられない格調高い文章によって、後世のわれわれに伝えられている。
本著を読んでいると、この遭難劇は、シャクルトンが予定した通りのものだったのではないか、と思うほどなのである。困難な中でも冷静で状況判断に誤りが無く、まさに命を預けるに足る見事な統率ぶりで、隊員が不安無く付いていくのも、頷けます。また、写真から見たシャクルトンの風貌もまさに経験豊富な頼れるリーダーそのものです。(本著には写真も多く、余計にそう思ってしまう。しかし、当時の写真機は相当な重量で扱いにくい機械だったであろうに、ちゃんと救出直前まで写しているのだから大したものです。)
まさに「事実は小説よりも奇なり」。これだからノンフィクションの読書は止められない。
それにしても、この記録を読むと、小説はもとより、他の冒険譚すら色褪せてしまうのが、読後の問題です。
追記
本著は絶対に自分の蔵書にしたかったので、去年の誕生日プレゼントとして、子供たちにリクエストして文庫本を贈ってもらいました。(さらに記念の子供たちのサイン入りだ。)
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