【書評】ミニヤコンカ奇跡の生還 松田宏也/著
ミニヤコンカとは中国四川省の大雪山脈の最高峰(標高7,556m)。
相当の山好きでなければ知らないのではないか?実際私は知らなかった。
この山の歴史は、数奇である。20世紀初頭に標高9000mとの噂により、世界一高い山かもしれなくなって、登頂競争が起きたらしい。よって初登頂は1932年のアメリカ隊と古いものの、未だ登頂者は20名に満たない世界屈指の難峰だそうだ。
さて、本著であるが、1982年にこのミニヤコンカの頂上直下まで迫るも、悪天候などで遭難しながらも奇跡の生還を果たした本人による著作である。
山頂への無理なアタックが引き起こす判断ミスや悪天候により徐々に遭難に向かう過程、最期は生死の境での彷徨を、正確な状況描写と、心の葛藤(パートナーとの軋轢、自分の感情の変化)を克明かつ、ある意味、本人にしかできないユーモラスさを散りばめて綴ってある。
そのため、引き込まれて、今冬一番寒い夜に暖房もつけず、一気に読了した。そのため、足先が猛烈に寒い。
この遭難事件と生還劇の概要であるが、1982年中国四川省ミニヤコンカ峰(7,556m)の登頂を目指した市川山岳会の登山隊は最終的に山頂アタックした2名が、頂上目前にして遭難し、行方不明となる。捜索を諦めた登山隊も撤収し、ひとり下山を続け山頂直下から19日後、地元農民に発見され九死に一生を得るが、凍傷により両手指と両足を膝下15㎝より切断。
戦争のない日本において、これほど壮絶な生還劇は、そうないのではないか?
二人で本隊のキャンプに戻った時に、自分達を置いて登山隊が撤退したことをどう思ったか?
そしてその後にパートナーとはぐれ、見捨てた格好になり、結果的に一人生き延びた彼の思いはいかばかりであるのか?
驚くべきことに本著は遭難後わずか半年で書かれている。あまりに早くないか?普通はそう思うだろう。
思うに著者は、南極横断で遭難したシャクルトンが後世の教訓として「エンデュアランス号漂流記」を著したように、自らの失敗をきちんと後世に残そうとしたのではないか?
決して楽しい作業ではなかったはずだ。それでも生き残ったものの勤めとして、やり遂げたのであろう。
巻頭の言葉にそれが表れている。「わがザイル仲間、菅原信君、中谷武君に捧げる」と。
追記:ちなみにネットをググルと、著者の松田さんは日本ペイントの役員になっているらしい。
しかも登山に対する情熱は衰えず、全手足の指を失い、第一級障害者となりながらも、山登りを再開し、ヒマラヤ登山隊の副隊長として最終キャンプまで登れるほど復活されたらしい。
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