【書評】残された山靴 佐瀬稔遺稿集
副題は「志なかばで逝った8人の登山家の最後」
名だたる日本の著名な登山家の最期がたんねんに描かれています。登山をされないので余計に客観的かつわかりやすい佐瀬さんらしい文章です。描かれているのは以下の8人
1 森田勝
2 加藤保男
3 植村直己
4 鈴木紀夫
5 長谷川恒男
6 難波康子
7 山崎彰人
8 小西政継
山に魅せられ、後戻りできなくなって、更なる高みに引き寄せられて、ある意味必然的に山で亡くなった。
それぞれ日本では別に行動していながらも、登山という世界において、接点があるのがこの登山の世界のようだ。
8,000m峰は世界に2つの山脈、ヒマラヤとカラコルムにしかないという、ある意味狭い世界なのだから・・・。
こうした登山家の気持ちについて世界で最初に8,000m峰全14座の登頂に成功したイタリア人のメスナーがインタビューでこう応えたらしい。
「アルピニズムはスポーツの埒外(らちがい:つまりスポーツを超越している)にあるものだ。私にとっては、自分自身を表現するという意味でスポーツよりは芸術に近いものだと考えている。登山史でもっとも偉大な人は、たくさん登頂したとか、だれよりも早く登ったとかいうことでなくて、人間としていかに自分を表現したか、でとらえられるだと思う。表現者として、私は植村直己氏を尊敬している。」
メスナー氏自身は自分のことを語っていないが、世界の8,000m峰全14座を無酸素で登頂という、他にだれも真似できそうもないことを最初にしかも今なお世界で唯一達成している。これこそ強烈な自己表現だろう。
さて本著は佐瀬稔遺稿集ということで、志なかばで逝った佐瀬稔さんの最期を、看取った奥様である佐瀬禮さんによる第9章があります。
それは、終章「人間の尊厳」と夫・佐瀬稔の最期です。
それぞれの道を全力で駆け上ったそれぞれの人生を寄り添って支えた家族や仲間がいたおかげであることが、本著では意図せずに描き出されています。
どんなに強くてタフな人でも、他者の有償無償の助けがなければ、あれだけの高みには決して立つことはできない。
人生もまた然りですね。
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