【書評】梅里雪山 十七人の友を探して 小林尚礼/著
日本の海外登山史上最悪の遭難事故後の遺体捜索に尽力した著者による渾身の鎮魂記である。
梅里雪山は、中国雲南省の最高峰・メイリーシュエシャンのことで、標高6,740m。
チベットにおける聖山であり、未踏の秀麗、荘厳なる山である。
写真でみる梅里雪山は、神が宿るにふさわしい山容であり、著者が見惚れるというのも無理からない魅力的な存在感あふれる山である。
そして、暮らしているチベットの人にとって近くて神々しい神の山なのである。
1991年の日本の京大と中国・チベット合同登山隊が初登頂を目指すも、氷河上に設営したC3(キャンプ3)で雪崩にあって、その場に居た17人全員が亡くなった遭難事故とその後の遺体捜索の話をベースに現地に滞在し捜索を続けていくうちに、現住するチベットの民と心通じ合う著者の生き様が使命感を帯びた崇高なものに見えてくる。
本著の衝撃的な部分は、雪崩によって氷河に飲み込まれた17人は、7年後から梅里雪山の氷河から遺体と遺品が少しずつ発見されたのである。氷河が少しずつ下流に流れていく中で、氷河が少しずつ融けて露出してきたためなのである。最終的に16人の遺体が発見されている。著者はそのほとんどの遺体捜索と収容に立ち会って、彼の無二の親友も発見しているのである。
本著には氷河に露出した上のような遺品や、さらには遺体の写真がいくつか載っており、むろんそれは剥き出しの遺体ではなく登山の服装や寝袋の中にあって、その外側を写したものであるのだが。それでもその衝撃感は、苦しくなってしまう。
チベットの聖山として崇められ、登ってはいけない山を登り、聖山を穢されたと思い、雪崩による遭難を当然の天罰だと思っている現地の人との軋轢には、山好きの私とて胸が痛む。
いろいろ考えさせられる内容でした。
そして今なお、未踏峰のこの山は、そのままでいて欲しいと思いました。
チベットの人々と亡くなられた17名のためにも・・・。
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