【書評】坂の上の雲 司馬遼太郎/著 【テレビ】NHK制作
大好きな司馬遼太郎の大著であり、わが故郷四国松山が舞台でもある思い入れ深い作品である。
文庫本は8巻、延べ3,000頁弱の長編である。
日本の近代化、それを実現した偉大なる明治の時代を日露戦争を頂点に描いており、日本にとって日本の良き文化を保ちつつ、世界史上もっとも飛躍し輝ける勃興を歩んできた最高の時代であったという著者の思いがほとばしる作品である。
構成としては、前半部分の秋山兄弟と正岡子規の交流や明治勃興期の時代描写、中盤からの日露戦争の勃発・推移、終盤のロシア・バルチック艦隊との日本海海戦と、その時代の主要な流れと主人公の関わった事実を余すところなく書く尽くされ、読み応え十分な書である。
本著に対する世間的な評価についてはあまり興味はないが、極東という位置条件の不利な部分を創意工夫で乗り越えつつ、有利な部分を最大限に生かして、19世紀から20世紀中ごろまでの列強による武力闘争、いわゆる弱肉強食の帝国主義の中で負けることなく、世界の列強の一角にまでなった日本の国家国民総体としてのがんばりを賛美しているかのような本著は大いなる議論を呼んできたであろうことは想像に難くない。(その輝ける最大の成果は日露戦争の勝利で結実したと書いてあるように、凡人たる一読者である私は思えてしまう。が、司馬さんは史観として現実に起きた戦争の意味を肯定していたりしているが、戦争による悲劇がそこにあることに決して目をつぶっているわけではない。)
さて、NHKで3年をかけて放送しているスペシャルドラマ「坂の上の雲」であるが、時間と金をかけたスケールの大きな作品に仕上がっており、実に見ごたえがあるものとなっている。
しかもテレビドラマらしく、人間ドラマとして丁寧かつ丹念に描いているのが、原作との違いであり、良さでもある。
原作では正岡子規は3巻目の途中、つまり前半で亡くなるのであるが、ドラマでは全13話中、第7話と半分過ぎてからとなっている。それだけ人間ドラマ部分を厚く描いているということだ。
それにしても、わずか百年ちょっと前の日本という国が、あたかも一つの意志を持ったかのような巨大な有機体として、一体化して、一つの方向に突き進んでいた、まさにそれを「坂の上の雲」と表しているのだが、そんな日本人の特性が、現代においては軍国主義には突き進まず、東日本大震災での復興などに見られることが、なんだかとても嬉しく思いますね。
来週から始まるドラマ「坂の上の雲」第3部が楽しみです。
追記:文庫本の第8巻が書棚にないのです。たぶん、誰かに貸し出した際に返還漏れでないかと・・・。いつか買い揃えないと・・・。
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