【映画】未来を生きる君たちへ
第83回アカデミー賞、第68回ゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞をダブル受賞した話題作。世界で高い評価を受け、『悲しみが乾くまで』でハリウッド進出を果たしたデンマーク出身のスサンネ・ビア監督が、デンマークとアフリカの難民キャンプを舞台に、善と悪、愛と憎しみの線上で揺れ動く主人公たちが苦悩する姿を映し出す。
スタッフ
監督 スサンネ・ビア
製作 シセ・グラム・ヨルゲンセン
脚本 アナス・トーマス・イエンセン
原案 スサンネ・ビア
撮影 モーテン・サーボリー
音楽 ヨハン・セーデルクヴィスト
字幕 渡辺芳子
キャスト
アントン ミカエル・バーシュブラント
マリアンヌ トリーネ・ディアホルム
クラウス ウルリク・トムセン
クリスチャン ヴィリアム・ユンク・ニールセン
エリアス マークス・リーゴード
ラルス キム・ボドゥニア
映画や小説で最も難しいのは現代を舞台として、その中で不条理さを無理なく描ききることと思っている私であるが、この映画にはそれが出来ているように思えた。わが人生初の経験である。
それだけでこの映画は賞賛に値する素晴らしいものであり、それにめぐり合えた幸運に感謝したい。
納得できうる現代を描いてもらう難しさは、こちらが生身の人間として現代を知っているからであり、アラ50にもなれば、経験もあるし、何より知識が莫大なものとなっている。ゆえに、小手先の話では、たんなる都合の良い話にしか思えないからだ。(なので現代を描きながらシチュエーションの辻褄を合わせるため特殊能力や奇跡を多用するファンタジー物か、あるいは時代物ばかりとなっている昨今である。漫画やアニメの影響でそれなりに無理なく話しをつなげることがうまくなっており、より楽しくなってはいるのであるが・・・。そういう意味で邦画の「おくりびと」は観ないといけませんね(笑))
さて、この映画の特徴的なことは、きちんとしたドラマとしてのストーリーがありながら、問題となる事象を実に自然にうまく対比して描いていることだ。
善と悪、暴力と対話、生と死、大人と子ども、男と女、家族と個人、友情といじめ、裕福さと貧困、先進国と後進国などなど。
ストーリーが展開されていく中で、こうした複数の事象の対比が構造的に無理なく描かれていて、多層的な社会構造となっている(ことを知っている)現代社会の複雑さや多様性を損なわずに、リアリティを維持しながら判りやすく描かれているのだ。
正義感あふれる医師として社会に世界に貢献し、父親としても良識ある市民としても申し分のなく人間味あふれる主人公であるが、全てのことが良い方法に行っているわけではない。いや、むしろ破綻寸前まで追い詰められたりしているのだ。
それでも対話のある生き方が、家族に幸せへの道筋を残してくれたのではないか。
あえてこの映画への苦言を申せば、人生をなめているようなお馬鹿な人間が出てこない。主舞台であるデンマークでは貧しい人間(物質・精神両面)もほとんど出てこない。
いや、そうした部分を排除したからこそ、対比の構造を際立たせられている。
それがこの監督の演出なんだろう。
ところでこの監督を調べてみると予想に反して女性だった。これまた衝撃の事実でした。ストーリーは男性中心で進み、女性監督にありがちな女性目線も無かった。だから絶対に男性監督だと思ったのだが・・・。うーん、この監督の懐は実に深い。(俺が浅いのか・・・)
ともかく、子どもは子どもの世界で頑張っている。加えて現代はインターネットによって、情報があふれており、その結果、純真でありながら、心ならずもいつのまにか大人の世界に巻き込まれてしまう。
そこから救え、導けるのは、大人でなければならない。だから現代の大人はもっともっと、頑張らないといけない。暴力や威圧ではなく対話、憎しみ合うことでなく赦し合うこと、判ってはいるんですがね。
深い深い内容を含む映画ですが、それが実にわかりやすく描かれた稀有な映画です。
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