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2011年8月 3日 (水)

【書評】空白の五マイル 角幡唯介/著

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副題は「チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む」

冒険とは、自ら求めて危険を冒すこと。改めて感じ、肝に銘じました。

チベットからヒマラヤ山脈の東端を越えてまさに180度Uターンして、インド洋に流れる大河ツァンポー川。その語源は、チベット語であり、本当の名は、ヤルツアンポー(ヤル川)。川の名としては、インド側で呼ばれる「ブラマプトラ川」の方が知名度大で、世界地図にも載っています。ウィキペディアでは「全長2,900km。源流はヒマラヤ山脈の北側で、チベット高原南部を東進した後ヒマラヤ山脈東端をかすめ南下、インドのアッサム州を西へ向け横断、ガンジスに合流する。その合流点では世界最大の広大な三角洲を形成している。」となっている紛うことなき世界の大河の一つですね。

これほどの大河なれど、私が180度Uターンと称したように、大きく屈曲し(大屈曲部といわれる)、しかもヒマラヤ山脈東端をえぐるように流れています。その大渓谷部分がツアンポー渓谷といわれ、グランドキャニオンを超える世界一高低差のある大渓谷と称されています。そのツアンポー渓谷の5マイル部分が探検家垂涎の未踏地として残っていたのです。

1924年にキングドン=ウォードが探検できなかった5マイルを、現代まで残った最後の地理的空白部としてこう呼んだ。
ファイブ・マイルズ・ギャップ、「空白の5マイル」と。

著者は早稲田大学探検部出身で、少し後輩に石川直樹さん(彼がどこかでこの本の書評を書いていたので読んだのです。)がいます。
その彼が、危険を顧みず、職を辞してツアンポー渓谷を踏覇した記録がこの本です。

山登り(といっても歩くだけですが)している私は、著者の描写で十分に山の感じや大変さを感じ取ることが出来、わくわくドキドキしながら一気に読みました。著者とは較べることの出来ないほどのスケールの小さなミニミニ冒険しかしたことの無い私にとって、前近代の伝説的な冒険譚でなく、同じ時代に生きる、どこかで遇ったかもしれない、話したかもしれない、普通の青年で、それはひょっとして自分だったかも?というようなまさに羨ましーなーというお話でした。(ただし、若いときにこのような感化を受けていたら、能力のない私は冒険に行って直ぐに死んでいたでしょうね。)

それにしても、この本を読めるのは、著者の勇気と奇跡的な幸運のおかげでした。誰も住んでいない助けの来ないことが確実でまさに死と隣り合わせの場所を単独行で進むのですから・・・。ほんの小さなアクシデントですら命取りになるでしょう。

第八回開高健ノンフィクション賞受賞。普通の文体による身近な感じと写真を後半部まで見せなかった構成の秀逸さは読後の充実感で満腹になりましたね。

また冒険のような旅に出たい!(笑)

最後に著者の冒険とは直接かかわりの無い話ですが、珠玉の名言がありましたので紹介します。

「彼はあなたたちのために、まだ発見できる何かを残しておいたのよ」ツアンポー渓谷の空白部分を5マイルまで縮めた伝説のプラントハンター、キングドン=ウォードの奥さんが空白部で幻の滝を発見したアメリカ隊の人に言った言葉。

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