【書評】黒船前夜 渡辺京二著
この本のサブタイトルは、「ロシア・アイヌ・日本の三国志」となっているが、これは少し行過ぎたイメージを植えつけてしまうと思う。私は古代中国の三国志のイメージ(3つの国が勢力争いをする)を持ったのだが、そのような歴史の展開にはなっていない。(アイヌを国家とするならば表現上間違いではないのですが・・・)
冒頭からやや批判的なことを書いたが、この本は、よほどの歴史好きの方でないと、読む終えられないと思う。特徴的な文体と併せて、歴史的な大事件を扱うものでなく、小さな出来事の積み重なりを紡いだものなので、内容が地味にならざるを得ず、くわえてその理解には、黒船来航前の歴史の知識がないとさっぱりイメージが湧かないと思われるからである。
しかしながら、この本は、私にとってとても印象的なものになった。
歴史的大事件である黒船来航以前のほとんど光を当てられない鎖国時代のロシアとの接触を丹念に書かれているからである。
そして、その歴史において、唸ってしまったのは、予想外なことなのだが、江戸幕府の役人の偉大さを再認識してくれたことである。、(著者はあまり褒めていないが・・・)
中央政府があまり乗り気でない、しかも手探りの政策・事業に対し、江戸幕府の蝦夷地などに派遣され実務を取り扱った現地の下級役人は、少ない情報や資金、権限の中、最大限の努力をし、なかなか的確な判断を下しているのだから、これは最高級の評価に値するものだと思いました。
江戸中期以降のロシア来航に対し、蝦夷地の探検と幕府直轄化による既成事実の積み重ね、対ロシアとの意思疎通困難な中での外交交渉など、当時の状況から見て、今から検証してみるとかなり素晴らしい対応だと思います。(ただし、著者はあまり評価していないようですが)
ロシア来航の意図などの情報が少なく、よくわからない事象に対し、結果的にそれなりの善処となっている。偉大な先人の存在に、嬉しくなっちゃいます。歴史的人物にはなりえない私も大いに習って、先例の無い困難な状況下でも自らに与えられた事業をそれなりの評価を受けられるように成し遂げたいものです。
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