【書評】川の上で ヘルマン・シュルツ作 渡辺広佐訳
図書館で偶然見つけ、表紙に魅かれて借りた本です。
偶然が偶然を呼ぶ、とてもありがたい邂逅でした。神のお導きに感謝です。
あらすじ
1930年代東アフリカ。川沿いの小さな村に赴任していた若いドイツ人宣教師フリートリヒは、妻を熱病で亡くした。一人娘のゲルトルートも同じ病で死に瀕している。一刻も早く川を下り、大きな町の病院に娘を連れて行かなくては・・・。
村人たちが用意してくれた小船に娘を乗せて、フリートリヒは川へ漕ぎ出した。
さまざまな危険に満ちた旅の途上で、フリートリヒは不思議なことに気づいた。立ち寄る沿岸の村の人々が、次々に娘を癒してくれているようだ・・・。フリートリヒは次第に、アフリカの人々に洗礼を施すことのみ考え、現地の知恵を軽んじてきた自分のあり方に、疑問を抱くようになる。やがて娘は徐々に回復し、川の上で、父娘は今まなかったほど心を開いて話しあい始めた。そしてついに町に着いた時に・・・?
異文化に対する尊重、家族への無償の愛、親子間の対話の重要性、自己に対する謙虚さ、相手に対する思いやりとそれを受け入れる度量などなど、とても濃密なお話がわずか140頁足らずに収められている。成功体験が導く自分自身の思い上がり、傲慢さを久しぶりに自己評価できるような、すばらしい小説であり、まさに寓話そのもののお話だった。ちなみに、このような主人公の人格形成や発展を描くことを主題とするものをドイツ教養小説と言うらしい。
理屈でなく、人生や家族において大事なことはなにか、それを分からせてくれる、人生のバイブルと呼ぶにふさわしい名著であると思いました。今度自宅保存用に購入しないと。
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