【書評】全ての装備を知恵に置き換えること 石川直樹著 その2
↑文庫本の表紙
残り3分の2を読み終えましたので、印象に残った文章をいくつか紹介します。(前回の記事はこちら)
周極星 グリーンランド
(前略)北極星の近くにあって、地平線の下に決して沈まない星々のことを周極星と呼び、
(中略)方位を知るための指針として、古来から重要な役割を果たしてきた。
(中略)北極圏は、ぼくにとっての周極星であり、ぶれない指針である。「辺境」と呼ばれる地に身を置いて自分の位置をあらためて確認すると、今まで見えなかったものが見えてくる。
迷ったときには空を見ればいい。そこには必ずいくつかの周極星を見ることができるのだから。
『世界最悪の旅』 南極
(前略)南極点を踏んでプロジェクトが終わり、はじめてこの本を手にとってみることにした。
(中略)この本は、南極点到達競争に負け、失意のまま倒れた冒険者を慰めるために編まれたものではない。
「本当に大切なのは経験によって得たものを一つとして失ってはならないことである」と(スコット隊の一員で)著者であるチェリー・ガラードが言うように、彼らは経験をシェアしようとしているのだ。すべての経験はストーリーとして受け継がれ、読み手の翻訳行為によってそれを生きるための知恵として取り込む。(後略)
天の川 アフガニスタン
(前略)ヘッドランプをつけてトイレに行こうとすると、人々に止められた。「これを持っていきなさい」とひとりの老人からアルコールランプを手渡された。アフガニスタンでは夜間に人が歩くことはめったになく、怪しい光を灯していると、狙撃されることがある、という話を思い出した。ぼくはだいだい色の火が灯ったアルコールランプを受け取り、外に出た。(後略)
深淵にいる孤高の人は、得てして違う次元に住まい、同じ言葉を持ち得ない感じがするが、彼はそうではない。
彼の冒険の凄さには、常人は到底近づくことはできないが、すくなくともその文体や表現から、彼の感性や空気感に私たちとの大きな隔たりは感じない。
隣にいても、普通に話ができるのではないか?そういう感じである。
たった1冊読んだだけであるが、石川直樹は私の好きな作家の一人になり、特にその文体には、大いなる憧れを持つに至ったことは確かである。
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