ぬくもりへのささやかな逃避
気がつくとそこには彼女がいた。
これまでつれない素振りを何度も感じていたから、何故ここにいるのか不思議な気もするが、それでもいたって自然な感じもする。
特に会話をするでもなく、あうんと言うような互いの動きも無いまま、空気のように二人がいる。
彼女の温もりを直に感じたことはないはずなのに、過去にそういうことがあったかのように頭の片隅にもやもやと漂っているぼんやりとした想いを駆逐できない。
私は明るく広々として暖かなリビングで、少し気分を変えるために移動するとそれにシンクロするように彼女も移動する。
彼女と私は触れるか触れないかの、いやむしろ触れないことが不自然であるようなぎりぎりまで近接した位置に、どちらかともなく落ち着いて、それぞれ別個に寛ぎ始める。
緩やかでまったりとした時間の経過に身を任せていると、いつの間にか互いに温もりを感じ始めていた。
いつから始まったのか、思い出そうとするも、そんなことはどうでもいい事に気がついた。
二人の温もりと同じ温度で優しく包みこんでくれる液体のような、たぶん誰もがこの世に生まれる前に味わったであろう胎内のそれにきっと似ているであろうものに身を委ねているかのような心地よさに心が溶けてしまいそうだ。
どれぐらい経ったかわからないうちに彼女はキッチンに向かう。初めてのキッチンなのにすぐに手際よく料理を始める。私にオーダーを聞くでもないが、好みのものを出してくれる確信が、彼女の手料理は初めてなのに持てるのはどうしてだろう。
料理している後ろ姿をぼんやりと眺めていると、「私は彼女は好きになれない」との声が、聞こえてきた。
「なんだよ、それは・・・」と思っていると、望むべくもないのに、目が覚めた。
疲れの溜まっている私はもう一度目を瞑って、うまくいかない現実から少しだけ逃避を試みた。ほんの数分だけ、もう一度、心地よいぬくもりに包まれてみた。
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